アクティブイノベーションウエスト代表弁護士の木下です。

  昨日の第72回菊花賞でオルフェーヴルが快勝し、皐月賞、日本ダービーに続く今年の牡馬クラッシック三冠を達成しました。
  牡馬クラッシック三冠馬の誕生は、社会現象的な人気にもなったディープインパクト以来6年ぶりのことで、70年余りという長い日本競馬史上においても、実に僅か7頭目という快挙でした。正に10年に一度しか現れない歴史的名馬の誕生ですね。

  私が大学生のときに馬術部に所属していたことは、以前も少しお話しましたが(「スターホース誕生への期待」【日本ダービー】)、この学生時代の記憶と重なって、実は私はオルフェーヴルには特別な思い入れがあります。それは、一時期私が最高責任者として、大学で管理をしていた馬と同じで、オルフェーヴルが栗毛の馬だからです。この私が管理していた栗毛の馬の名前は、杜燕(とえん)と言います。杜燕は細身で気性が大人しく、優しい目をした栗毛の牡馬で、ブラッシングをしてやると、栗色というよりは金色のように輝く馬体が美しくて、私はとても好きでした。
  余談ですが、私が在籍していた東北大学馬術部では、「杜の都」という仙台の愛称に因んで、名前に「杜」の文字をつける馬が多かったのです。例えば、当時は「杜貴(とき)」とか「杜の舞姫(もりのまいひめ」(…但し、単に「ひめ」と省略して呼ばれたり、よく舌をペロッと出してる馬だったので、不二家のキャラクターに因んで、「ぺこ」とか呼ばれていました)という馬が在籍していました。他には、北海道大学馬術部が「北翔」や「北鈴」のように「北」の文字を入れ、東京大学馬術部が「東駿」や「東麗」のように「東」の文字を入れることが印象的でした。

  ところで、このオルフェーヴルは遅咲きの馬で、デビュー後、なかなか勝てない時期もありました。ディープインパクトのような優等生タイプとは異なるイメージで、レースの度に気性の荒らさや雨上がりの悪路の適性(顔に泥が跳ねると急にやる気をなくす馬や、逆に闘志を燃やす馬もいます。人間と同じで性格も様々で面白いですね)など、何かと不安視されてきた要素がありましたが、今回の菊花賞に関しては、やはり距離適性の不安があったと思います。菊花賞は京都競馬場の芝3000メートルで開催され(皐月賞は2000、ダービーは2400ですから、かなり長くて過酷です。「一番運の良い馬が勝つ」と言われるダービーに対して、菊花賞が「一番強い馬が勝つ」と言われる理由です)、選りすぐりの若い優駿にとっても未知の長距離です。人間の陸上競技に置き換えてみても、100メートル走が得意なランナーが3000メートル走でも勝てるとは限らないように、競馬でも持久力による距離適性はあり、これを圧倒的に左右する要素は生後のトレーニングではなくて、生まれつきの血統だと考えられています。
  オルフェーヴルは、父親がステイゴールド、母親の父がメジロマックイーンという、共に長距離得意の名ステイヤーですから、やはり菊花賞のような長距離走の距離適性は申し分なかったのでしょう。血統は嘘をつかなかったということです。

  さて、このように血統が大きくものをいう競馬の世界では、ブリーダー犬などと同様に、優秀な産駆を得るために、いわゆる種付け料を支払って交配を依頼するわけですが、この種付け料がいくらぐらいかかるかご存知でしょうか?
  種付け料は種牡馬の現役時代の戦績でかなり幅がありますが、著名な種牡馬だと数百万円が相場です。勿論、それ以上の種付け料がかかる種牡馬もいて、あのディープインパクトの種付け料は1千万円を超えるらしいですし、以前優秀な産駆を次々と送り出した有名な種牡馬サンデーサイレンスの種付け料は2千万円とも3千万円と言われていました。
  産まれてくる子馬が父親譲りの優駿なのか、優れた遺伝子をどこかに置き忘れてきたかのような駄馬なのかも分からないままの投資ですから、大変リスクのある博打ですが、きちんと子馬が産まれればまだ良い方で、中には交配はしたが、受胎しなかったというケースもあります。このような場合、数百万円から数千万円にも及ぶ種付け料は返金されるのでしょうか?
  結局、種付けも契約に基づくものですから、結論は契約内容に委ねられますが、一般的には種付け料は交配を許可することに対する対価で、受胎を保証する料金ではないので、受胎しなくても返金を求めることができない約束が多いようです。名馬の子馬がどれだけの能力かも分からないだけでなく、そもそも受胎しなければ、ドブに捨てたに等しい大金を投資するのは、やっぱり大変なギャンブルですよね。
  ただ、最近は、最初に種付け料の半金だけ支払えばよくて、残りの半金は受胎の確認後に支払うという、より合理的な契約も増えているようです(それでも、流産などのリスクは負わなくていけませんが)。

  このように、競馬の世界は馬券を買う側だけではなく、生産者側も大変なギャンブル的要素を背負って成り立っているのです。何らかの夢や信念がないと生きていけない世界だと思います。
  正に、オルフェーヴルの三冠にはこのような夢がありましたし、ファンを喜ばせてくれただけでなく、生産に携わる人々を大いに勇気付けてくれる快挙だったと思います。今後、この栗毛の名馬がどのように成長を重ね、どのような夢を見させてくれるのか、楽しみにしたいですね。