アクティブイノベーションウエスト代表弁護士の木下です。
今回は、私が参加した富田林少年殺人の裁判員裁判の最終回として、裁判所が下した判決のお話をしようと思います。
まず判決に先立って、検察官は被告人に対して、懲役5~10年の不定期刑による処罰を求刑し、被害者参加人からは、今回法律上課すことのできる一番重い刑罰、無期懲役を求刑しました。
一方、弁護側は、被告人の病気などを理由に減刑を求めるとともに、普通の刑務所ではなく、少年院での処遇を受けさせるべきことを主張しました。
それを受けて、裁判所は、被告人に対して、懲役5~10年の不定期を言い渡しました。検察官の求刑どおりの判決でした。
ここで、まず不定期刑とは何のことか疑問に思われる方がいらっしゃると思います。
不定期刑は、日本では少年について認められている刑罰で、裁判所が判決の言渡し時に最終的な刑期を確定させないで、幅を持たせた刑期の範囲だけを決めて言い渡す自由刑(身体を拘束して自由を奪う刑罰)のことです。
少年はまだ人格的に完成しておらず、成人以上に更生の可能性があるので、有期刑の刑期に一定の幅を与え、その後の更生状況等をみて、処遇施設の方で最終的な刑期の終了時期を決定することにしたわけです。
ところで、今回の判決では、裁判所から、異例の踏み込んだ内容のコメントが二つありました。
一つ目は、新聞でもかなり大きく報道されましたが、少年法が定める法定刑の範囲が狭すぎて、裁判所が自ら選択した判決であるにも関わらず、この判決は不本意であること、及びその原因となっている少年法の適切な改正を望むことに言及されたことです。
少年法上、18歳未満の被告人に対して、死刑判決を言い渡すことはできず、一番重い刑罰は無期懲役になります。そして、無期懲役ではなく、有期懲役の方が適切だと判断された場合、成人であれば懲役15年など、かなり長期の法定刑が存在するのですが、少年法は、原則として5~10年の不定期刑が一番重い有期懲役として規定しており、それ以上長い有期懲役刑を予定していないのです。
裁判所は、この富田林少年殺人の事件では、5年で刑の執行終了となる可能性がある点でも、10年を超えては服役させられない点でも、とても十分とはいえないとして、これを少年法の不備だと指摘し、少年法が適切に改正されることを望む旨の異例の付言をコメントしたわけです。
二つ目は、このように不定期刑として懲役5~10年を選択したわけですが、裁判所としては、10年でも短いのではないかと考えているわけだから、軽々しい処遇とならないように、処遇施設において、くれぐれも慎重な判断がなされることを希望する旨の付言にも言及したことです。
先程説明した不定期刑の最終判断は処遇施設である刑務所などに委ねられるわけですから、本来裁判所が口出しする内容のことではないのですが、少年法の不備を指摘し、苦渋の選択をした裁判所の意見も参考にして、最終的な刑期の終了時期を決定して欲しいと、ここでも異例のコメントをしたわけです。
これらの付言は、被害者参加したご遺族にとっては、本当にありがたいコメントでした。
判決は、被害者参加人であるご遺族が求めた無期懲役ではなかったですが、その思いをしっかりと受け止めて、真剣に協議して導いて下さった判決であることがよく理解できましたから、救われた気持ちになりました。
特に、少年法改正の必要性にまで踏み込んで言及された一つ目の付言については、新聞報道でも極めて異例の判決と伝えられたとおりで、相当の勇気を持って踏み込んでいただいたと思います。
私は、少年法の廃止などの極端な主張をするつもりはないです。
しかし、社会が変化して、以前は考えられなかったような少年による凶悪事件が多発するようになると、少年の更生の可能性には一定の配慮をしつつも、少年法を改正し、ある程度の厳罰化によって抑止力を維持することは避けられないと思います。
大相撲の八百長疑惑のコメントでも述べましたが、社会情勢の変化とともに、法律も変わり、新しい刑罰が創設されたり、廃止されることは珍しいことではないのです。
この点、危険運転致死傷罪の創設は、極めて顕著な例です。
以前は法定刑が5年以下の懲役などしかない業務上過失致死傷罪でしか裁けなかったものの、遺族にしたら、殺人で命を奪われたのと何も変わらないような無謀な飲酒運転などによる死亡事故が増えて、業務上過失致死傷罪より重く、十分な刑期の幅を持たせた危険運転致死傷罪が創設されたわけです。
危険運転致死罪だと、1年以上の有期懲役ですから、例えば懲役15年などのように、5年という上限が定められている業務上過失致死罪よりも、はるかに重い厳罰を課すことが可能です。
私は、今回の判決が示唆するものも全く同じ流れにあると思います。時代の変化とともに、残念ながら、少年法が定める法定刑と立法時には予想もできなかった現実の事件とのギャップが生まれてきているのではないでしょうか。
現実の事件の証拠を見て、これを裁く現場の裁判官や裁判員が、相応しい法定刑が法律に用意されていないと指摘するのは、極めて深刻な事態であり、国は早急に対処すべき由々しき問題だと思います。
個人的には、今回のような少年の殺人事件に限らず、一口に刑事事件と言っても、個々の事件でかなり事情が異なるわけですから、それぞれの事件を裁く現場の感覚や意見こそが優先されるべきものであって、私は、立法段階で余り法定刑の範囲を狭く限定してしまうのは、妥当ではないと考えています。不定期刑の幅をもう少し広げて、懲役5年~15年の中で短期と長期によって服役の可能性のある幅を5年間に区切ることができる(例えば、懲役7年~12年とか、懲役10年~15年)ような改正が望ましいと思います。
一方、今回の富田林少年殺人に下された異例の判決について、ある弁護士さんが、ご自身のブログにおいて、それでも少年の更生の可能性には慎重な配慮をしなくてはいけないと思う旨のやや否定的コメントをされていたのを拝見しました。少年の更生の可能性も重んじなくてはならないことは、私も十分に理解していますから、この判決に肯定的な私の意見の方が絶対に正しいとは思っていません。
しかし、時代の変化とともに、少なくとも各法律がマッチしているのかどうかを絶えず議論することは有益なはずであり、せめて今回の判決が、少年法改正の議論のきっかけになって欲しいと願っています。