リーガルジャパン代表弁護士の木下です。
私は、10年近く前から、親しい税理士さんや司法書士さんらと作る「相続問題研究会」というグループに所属しています。相続事件は法的にも税務的にも横断的な専門知識がなければ正しい解決に導けないことが多いので、相続問題研究会では定期的に様々な事例の研究をしてきました。
先日、この相続問題研究会の忘年会があったのですが、ここで今話題になっている税制改革のうち、相続税改正の話題になりました。
現在の相続税法では一律に5千万円と相続人一人当たり1千万円の基礎控除がありますから(相続税法第15条1項)、大半の人は相続税を払う必要がありませんでした(例えば、一家の父親が亡くなって、妻と2人の子供の合計3人が相続人となった場合、基礎控除が8千万円ありますから、遺産総額が8千万円を超えない限り相続税は発生しないことになります)。ところが改正後はこれらの基礎控除が4割もカットされて、基礎控除金額は一律に3千万円と相続人一人当たり6百万円に減額される方向で議論されていますから、相続税を納めなくてはならないケースがかなり増えるわけです(先程の例ですと、3千万円+6百万円×3人で、遺産総額が4千8百万円を超えると相続税が発生する可能性が出てきます)。
また、現行法上の相続税の税率は最大50%ですが(相続税法第16条)、改正によってこの税率が更に引き上げられる可能性があります。
そのため、改正前には相続税納付の必要がなかったのに改正後は納付しなくてはならなくなるとか、税率のアップによって、納付しなくてはならない相続税の金額も億単位で高くなるようなケースがあるだろうというお話でした。
とすると…これはあくまで税理士さんらの噂話に過ぎないのですが、どうせ亡くなるのであれば、相続税法が改正される前に被相続人に亡くなって欲しいと考える人も残念ながら出てくるのではないか…そして、彼らがさすがに殺人を犯すとまでは言わないが、既に回復の見込みのない入院中の被相続人であれば、その延命措置の継続を拒否するようなケースはあり得るのではないか…というようなお話をされていました。いかに回復の見込みが乏しくても、現在安楽死や尊厳死は容易には認定されないので、これらはかなり際どいコワ~い話になるわけですが、急激な改正による影響を考えると、あながち突拍子もない噂話ではないかもしれません。
私は、ストーカー系の紛争が増加する以前は、弁護士に対する業務妨害案件(弁護士に対する無言電話や虚偽の出前注文などによる業務の妨害案件のことです)のトップは相続事件絡みが原因だったというデータを見たことがあります。相続なんて棚ぼた的な要素があるのだから、相続税くらい払えばよいのにとか、威力業務妨害罪(刑法第234条)などで逮捕されるリスクを冒してまで弁護士に対する業務妨害などしなくてもよいのにと思われる方も多いでしょうが、労せずして手に入る相続財産のようなお金は、かえって人を変えてしまう魔力があるということです。
先日決まった2012年税制改正大綱では、相続税の課税ベースの拡大や税率引き上げは結局見送られ、これらは積み残し議論に回りました。
今後も税収確保のための税制改革は不可欠でしょうが、税理士さんらのコワ~い噂話があることを考えると、大きな一回の改正だけで相続税による税収を増やすのではなくて、何回かに分けて基礎控除金額を段階的に減額して、少しずつ相続税による税収をアップさせていくような改正を図る必要があるのかもしれませんね。