アクティブイノベーションウエスト代表弁護士の木下です。

 先週末、今年もJリーグが開幕しました。
 Jリーグと言えば、先日の日経新聞で、カズこと三浦知良選手が書かれている面白いコラムを見かけました。「マーラ・プレッタ」というブラジルの懸賞金の話なのですが、これがJリーグでも合法なのか、考えてみたいと思います。

 その前にJリーグに余り詳しくない方のために少し整理しておきますと、日本のプロサッカーリーグであるJリーグは、カテゴリーがJ1とJ2に分けられています。そして、毎年、J1の下位3チームとJ2の上位3チームは入れ替えになるのです。J1からJ2に降格すると、雑誌やスポーツニュースの露出度は激減しますし、対戦相手にも有名な選手が少なくなるため、大概観客数も減少して入場料収入が減少します。有力な選手は、レベルの高いJ1でのプレーを希望してクラブを離れることがありますし、何よりもスポンサーが離れてしまってクラブの強化費用に支障をきたす可能性もあります。ですから、J1にいるどのクラブも絶対に残留したいと思っていて、優勝争い以上に残留争いの方が熱く激しくなることも珍しくありません。
 昨年のJリーグでは、ヴィッセル神戸とFC東京という2つのクラブが最終節までJ1残留の残り一つの椅子を激しく争いました。FC東京は最終戦に勝てば自力で残留することができて、その対戦相手も既に降格が決まっていた京都サンガでしたから、残留には有利な状況と見られていました。
 一方、ヴィッセル神戸は、まず最終戦に勝つことが絶対条件で、その上でFC東京が引き分けるか負けるのを待つしかない状況でした。その最終戦の相手は浦和レッズ、しかも、ヴィッセル神戸にとってはアウェーとなる埼玉スタジアムでの試合でした。「赤い悪魔」と異名を取るこの最終戦の相手は、日本で最も熱狂的なサポーターに支えられており、その本拠地の埼玉スタジアムは、常に満員のサポーターで真っ赤に染まります。私も去年初めて埼玉スタジアムに観戦に行きましたが、サポーターの熱い声援のボルテージは凄まじく、ホームの浦和レッズはその応援を大きな力にできることがよく分かりました。当然、アウェークラブに対するブーイングも凄いもので、埼玉スタジアムは、日本で最もアウェークラブが勝つのが難しいスタジアムの一つだと思います。大切なJ1残留を賭けて、勝つしかない最終戦を、そのような埼玉スタジアムで戦うことになったヴィッセル神戸のプレッシャーは相当のものだったと思います。

 余談ですが、我々の法人にも、浦和レッズの熱心なサポーターの弁護士がいます。浦和レッズのことを語る彼を見ていると、やっぱりレッズサポーターは熱いなぁ、と思うときがあります。
  そういえば、以前イタリアに卒業旅行に行ったときに、ミラノのホテルのオーナーと一悶着ありました。ミラノにはACミランとインテルという二つの強豪サッカークラブがあります。当時、私としてはACミランの方をよく知っていたので、オーナーにもACミランが好きだと言ったら、本気で首を絞められそうになりました。オーナーは笑っていましたが、目が恐かったです。このオーナーがインテルの熱烈なサポーターだと分かったので、実はインテルはもっと好きだと言ったら、強くハグされて許してくれました。その後、ミラノからローマに行って、後にヒデこと中田英寿選手が所属することになったASローマの試合を見ました。その試合中にタッチライン際に選手が来たので、私が中腰になって写真を撮ろうとしたところ、間髪入れず後ろの方の席から、結構な数のポップコーンやビールの紙コップを投げつけられてブーイングを受けました。「たらたらと写真なんか撮ってるんじゃねぇ!ちゃんと座って真剣に試合を見ろ!バカ!」。言葉は分かりませんが、はっきりとそういうメッセージを受け取りました。かなり恐かったです。あちらでは、サッカーの歴史が日本とは全く違っていて、本当に生活の一部になっています。日本のサポーターで、そこまでサッカーのために生活を捧げられる人はまだ少ないのですが、それでも浦和レッズのサポーターは、欧州や南米の人に一番近い熱い魂を持っているように思います。
 浦和レッズは、私が応援するクラブのライバルですが、日本にもより深くサッカー文化を根付かせて、日本のサッカーをより強くしていくためにも、レッズサポーターには日本のサポーターを引っ張って行って欲しいと思います。

 さて、話が脱線してしまいましたが、カズさんのコラムによると、ブラジルでは先程のJリーグ最終戦のような状況で、是が非でも勝って欲しいチームに対して、対戦相手でもないチームの関係者が「マーラ・プレッタ」を携えて激励に現れるそうです。「マーラ・プレッタ」とは直訳すると黒いカバン。その中身はもちろんお金です。つまり、何とか勝って欲しいチームに対して、ただ声援を送って見ているだけでなく、懸賞金を出して鼓舞するわけですね。他力本願だが是が非でも勝って欲しいという状況はありますから、気持ちはよく分かりますが、何とも直接的な方法です。
 昨シーズンのJリーグの最終戦でしたら、先程お話したように、ヴィッセル神戸は、まずアウェーで難敵浦和レッズに勝たなくてはいけないわけですが、それだけでは不十分であって、自力で残留を決めることができないため、残留争いのライバルFC東京の対戦相手である京都サンガに勝つか引き分けに持ち込んでもらうことが必要なのです。そこで、京都サンガに声援を送るだけでいいのか…何かできることはないか…正に「マーラ・プレッタ」の出番です。これがブラジルの話だと、ここでヴィッセル神戸から京都サンガに宛てて、FC東京に勝つか引き分けて欲しい…つまり負けないで欲しいというメッセージと共に黒いカバンが送られただろう、とカズさんはおっしゃっています。現金がたっぷり詰まったカバンが…。
  ブラジルでは、これは買収でも八百長でもなくて、懸賞金の一種くらいの感覚だそうです。
 たしかに大相撲で問題になっている八百長は、「負けてくれ」とお金を渡して試合結果を確定させますが(この点、八百長試合の英訳であるfixed game、「確定した試合」は非常に端的な分かりやすい表現です)、「マーラ・プレッタ」の方は、「勝ってくれ」とお金を渡してモチベーションを上げるだけで、これを使っても思い通りに勝てるかどうかは分からないです。だから、八百長のお金と「マーラ・プレッタ」のお金は本質的に別物でしょうが、潔癖な日本人的感覚からすると、何か釈然としない気もします。カズさんも、プロは勝利のためにお金を使うもの、という考え方もあって、最終的には勝負やプロというものをどうとらえるかの問題だが、日本で「マーラ・プレッタ」はあり得ないだろう、とおっしゃっています。やはり、日本では「マーラ・プレッタ」は許されないのでしょうか?

 まず八百長のケースと同様、この現金を渡すことは法的には贈与ですから、違法ではありません。
  しかし、JリーグにはJリーグ規約というルールがありまして、その第43条には、Jクラブ及びJクラブの役員、選手、監督、コーチその他関係者は、方法・形式のいかんにかかわらず、また直接たると間接たるとを問わず、試合の結果に影響を及ぼすおそれのある不正行為に一切関与してはならないという禁止規定があります。
 ヴィッセル神戸は、「Jクラブ」そのものですし、金額にもよりますが、懸賞金の設定は京都サンガの選手のモチベーションをアップさせて、試合の結果に影響を及ぼすおそれが十分にあるでしょうから、これらの要件は充たします。
 そうすると、この懸賞金の授受が果たして、不正行為に該当するかどうかの一点だけがポイントになりそうです。違法より不正の概念の方が広いですから、違法行為ではなくても、不正行為に当たることはあり得ます。したがって、もし不正行為に当たるのなら、「マーラ・プレッタ」は禁止規定違反になりますが、不正行為というのはかなり曖昧な表現なので争いの余地があります。

 この不正行為の範囲を解釈する上でJリーグ規定には、もう一つ別に参考になる決まりがあります。第11章制裁の規定です。ここでは違反行為ごとに、制裁金の金額を区別しています。それも最高1億円以下から、5000万円以下、2000万円以下、1000万円以下、500万円以下、100万円以下と、かなり詳細に区別されているのです。そして、先程の第43条の不正行為を犯したときの罰金は何と最高金額の1億円以下になっています。ちなみに、第88条の2ではドーピングの禁止も規定されており、国際サッカー連盟(FIFA)が定める禁止薬物の使用に違反したときの制裁金の方は5000万円以下になっています。
 ということは、この第43条で試合の結果に影響を及ぼすおそれのある不正行為として想定されているものは、ドーピング違反よりもはるかに悪性の高いもののはずで、極めて悪質な違法行為か、それに近いものに限るようにも思われます(例えば、試合に勝たないと、家族に危害を加えると選手を脅すなど)。したがって、報奨金のプレゼントである「マーラ・プレッタ」は、本来違法ではない贈与なわけで、ドーピングなどと比べてそこまで悪質とは言えないでしょうから、ここで予定している不正行為には該当しないような気がします。
 ちょっと日本人的感覚には反しますが、サッカーの本場ブラジルに倣ったということでしょうか。勿論、法的に可能ということと、日本の文化や倫理に合致しているかは別の話で、カズさんがおっしゃるように、日本で「マーラ・プレッタ」を実行することはやっぱり難しいでしょう。ただ、ここはかなり微妙な問題ですから、Jリーグの見解を伺いたいところです。

 ところで、先程のJリーグ最終戦では、ヴィッセル神戸が敵地で浦和レッズに圧勝し、最終戦の前には有利と思われていたFC東京が、京都サンガに敗れる結果となりました。ヴィッセル神戸が鮮やかな逆転残留を決めたわけですが、そこに黒いカバンが一役買っていたかどうかは分かりません。

 さて、今年のJリーグはどのような優勝争いや残留争いが繰り広げられるのでしょうか。開幕直後のこの時期は、どのクラブにも期待があって、ワクワクしますね。
 私にも、1993年のJリーグ開幕当初から応援しているクラブがあるのですが、願わくば、今年も早々に自力でJ1残留を決めて、終盤戦では優勝争いに絡み、他力本願ではなく自力で優勝を決めて欲しいと思います。我々サポーターやクラブ関係者が、愛するクラブのために、「マーラ・プレッタ」の用意をしないといけないのかどうか、ヤキモキと心配しなくてもよいように…。