弁護士の木下です。
突然ですが、皆さんは初めていちご大福を食べたときの感想を覚えていますか?
私が初めていちご大福を食べたのは、年号が昭和から平成に変わる頃で、私は大学生だったと思います。私が所属していた馬術部の友人の実家が宇都宮で和菓子屋をしていて、うちのいちご大福は宇都宮で一番人気だと自慢していたことを覚えています。甘い大福もちの中に、酸味のあるいちごを丸ごと盛り込むという、当時禁断とも思えた組み合わせは誠に画期的で、ちょっとしたブームになりました。その後、私は、いちご大福を真似た商品として、ぶどう大福やトマト大福を食べたことがありますが、いずれもいちご大福を食べたときの衝撃を超えることはなかったです。
先日のお正月に、東京から私の弟夫妻と一緒に、奈良の父母の実家に遊びに来ていた姪と甥に会いました。姪達はそこまで甘いお菓子が好きではないらしいので、何か良いものはないかと悩みながら、私達夫婦は手土産として、近所の和菓子屋さんでいちご大福を買って持って行きました。
姪は、夕食でお腹がいっぱいになったのか、いちご大福に手を付けませんでしたが、3歳の甥は、皮から赤く透けていちごが見える、ちょっと変わった大福を見るのは初めてのようで、警戒心と好奇心という二つの相反する欲求を隠しきれないようでした。やがて好奇心の方が上回ったのか、甥が恐る恐るいちご大福を口にして、意を決して噛み締めたところ、次の瞬間、ぱ~んと何かが弾けたような驚きと感動の表情がみるみるうちに広がっていきました。彼の柔和な笑顔は劇的に更に大きく緩み、甥がこの甘酸っぱい未知との遭遇をどのように受け止めたかを雄弁に物語っていました。結局、甥は、目を真ん丸にしながら、一口ごとに「おいしい~~~」と歓喜の声を上げて、残りのいちご大福が入っている箱を大切そうに抱えて、これを東京の自宅まで持って帰ると訴えていました。それだけ感激してもらえると、こちらも持参して、いちご大福デビューをしてもらえた甲斐があったと嬉しくなる程でした。
思うに、歳を重ねれば重ねるほど人は経験も重ねて賢くなりますが、あたかもその代償を支払わされるかのように、未知との遭遇によって味わえる感動の機会も少なくなっていきます。しかも、うまく感動の機会に遭遇できても、経験による慣れから、その衝撃は小さくなってしまうことが少なくありません。
もちろん厳密には、歳を重ねても、誰しもまだ食べたことのない美食や見たことがない絶景はたくさんあると思います。例えば、私は、学生時代に北海道のサロベツ原野を見たときに、その雄大さに「さすがは北海道!」と感動しましたが、後日弁護士になってから、似たような景色として、モンゴルの大草原を見たときに、上には上があることを思い知らされて、改めて十分に感動することができました。しかし、そのような機会はやはり年々限定的になっているし、良くも悪くもある程度類似の経験は重ねているだけに、想像がついてしまうところもあって、どうしても感動の質が落ちてしまうことが多いことは否めません。
ところが、未知との遭遇や新たな発見が多い子供は、日常的にこのような感動を満喫できるところがあり、このことは経験の乏しさゆえの子供の特権とも言えると思います。そのような無垢な子供は羨ましい限りですが、今しか味わえないような新鮮で深い感動がたくさんあるでしょうから、姪や甥には、これからも未知との遭遇を重ねて、良い衝撃を存分に経験して欲しいと思いました。
ところで、このように未知との遭遇による衝撃の機会が少なくなっていく大人ですが、私は、大人になっても毎年更新されていく、数少ないタイプの衝撃というものがあると思っています。それは、食べ物や風景との遭遇ではなくて、刺激を与えてくれる人との出会いから得られるインパクトです。
私は、同業の弁護士で集まって、愚痴の言い合いみたいになるのは余り好きではないので、弁護士同士で食事をする機会がほとんどありません。友人の数も弁護士よりも、異業種の仕事をしている人の方が遥かに多いと思います。仕事は異なれど、それぞれの分野において、確固たるビジョンや理念を持たれていて、それをきちんと実践して第一線で活躍されている方との新たな出会いやお話は、こちらも大いに刺激を受けて、これからの仕事への活力を掻き立てられるものがあります。
例えば、たまたま昨年の年末にも、私の妻の職場を経営されている素晴らしい税理士の先生にお会いする機会がありました。私は、弁護士はサービス業だと思っているので、たとえ業種は異なっていても、同じサービス士業として、仕事のあり方や専門家としてあるべき基本理念などが共感できる異業種の方とお会いしてお話することが大好きです。この方は、私より数年年上の人生の先輩ですが、今なお強い向上心を持たれて努力されていて、士業としての顧客に対するスタンスや接し方、仕事のクオリティに対する考え方や厳しさ、それを実践するための方法論など、どれも共感できるところが多く、素晴らしい税理士の先生だと思いました。お話させていただくことで、良い衝撃を受けましたし、数年後の自分も、少しでもこのような先輩に近づきたいと、意欲が湧いてきました。
今年はどんな新しい人達との出会いが待っているのでしょうか。
姪や甥のように新しい経験を重ねる無垢な素地は既に失われたかもしれませんが、今年もいちご大福との遭遇に匹敵するような爽やかな衝撃…そんな人達との新しい出会いを重ねることができると嬉しいと思います。