先週、宝塚市役所において、滞納している固定資産税の督促に腹を立てた住民が火炎瓶を投げつけて放火し、利用者や職員が一斉に避難する事件がありました。
 私の住んでいる関西圏で発生したこともありますが、この凶悪事件は前代未聞だけに、いくつか考えさせられることがありました。

 私が最初に気になったことは、被疑者の容疑と量刑です。
 犯行態様の危険性から、今回は殺人未遂罪の立件も視野に入れられているようですが、この被疑者に対しては、基本的には現住建造物等放火罪(刑法第108条)が適用されるはずです。これは、人が住居として使用している建物(例:人が在宅中のときだけでなく、たまたま外出中で不在にしている自宅)や住居性の有無にかかわらず、人が現実に存在する建物(例:普段は誰も居住していないが、肝だめしなどでたまたま人が入り込んでいた廃屋)などに放火して焼損させた罪で、死刑又は無期懲役若しくは5年以上の懲役という量刑が予定されています。
 この法定刑は、実は殺人罪(刑法第199条)と全く同じですから、刑法は放火によって人が亡くならなくても、実際に人を殺めたのと同等の刑罰を用意していることになり、いかに放火を重い犯罪と考えているかが分かると思います。そういえば、以前私に司法試験の勉強を教えて下さって、後に検事になった熱血漢の先輩がいるのですが、この方が偶然放火の現場に遭遇して、数軒の自宅が燃えるのを目の当たりにして、「放火っていうのは、本当にとんでもない犯罪だと思った!」と強く憤っておられたことを覚えています。人の生命や身体に対する危険が極めて高くて、それが延焼によって拡大する恐れがあり、加えて思い出の品や大切な資料など様々な財産も台無しにする危険が殺人に匹敵する重罪とされている理由です。

 ところで、このような法律が守ろうとする保護法益から、実は一口に放火と言っても、刑法はその罪をいくつかに分類しています。
 一つ目が先程の現住建造物等放火罪ですが、それ以外に非現住所建造物等放火罪(例:人が住居として使用していなくて、しかも誰も現存していない廃屋などの放火)と建造物等以外放火罪(例:自動車の放火)があります。前者は2年以上の有期懲役(刑法第109条)、後者は1月年以上10年以下の有期懲役を予定していますから(110条)、今回の現住所建造物等放火よりは、かなり軽い罪です。住居性や現在性が認められる建物よりは、生命や身体に対する危険は低くなるからですが、それなら、今回のような不特定多数の人間が利用する、特殊な建物に対する放火は更に重い類型があってもよいように思います。
 漠然とした印象ですが、従来はこのような公共性の高い大規模建物に対する放火は、まさか…という考えもあって、強くは想定はしていなかったところがあるはずです。しかし、今回のように、理不尽な動機から、このような大規模建物に簡単に放火に及ぶ人間が現れると、これからはホテル、学校、病院、映画館、フィットネスクラブなど不特定多数の人が利用する重要な建物で、自暴自棄型の安直な放火が発生するかもしれません。そう考えると、もう少し重い類型の放火の罪を用意をしておく方がよいのではないか…宝塚市役所の放火後の映像や損害が1億4千万円以上にのぼるという報道を見て、そのようなことを考えました。

 次回以降は、市役所側など別の角度からこの事件のことを取り上げたいと思います。