先日、私は、ある司法書士さんから、彼が受任している事件の進め方について、アドバイスを求められました。
 質問は、この司法書士さんが相談を受けている交通事故事件について、休業損害や慰謝料をどのくらい請求できるか、ということでした。私は、損害の計算方法を説明すると共に、アドバイスを求められた以外の項目も、損害として請求できる可能性があることを説明しました。ところが、彼は、喜ぶというよりは、「オーバーしちゃうなぁ…」と呟いて、ちょっと複雑な苦笑いを浮かべられました。

 先に断っておくと、私は特定の司法書士や司法書士という職業自体を批判するつもりは全くありません。むしろ、司法書士の伝統的な活躍の場である登記業務の正確さや迅速さは、私には真似できないもので、これらの仕事は知人の司法書士さん達に依頼して、完全に任せていますが、彼らは皆立派なプロなので、とても良い仕事をして下さいます。
 しかしながら、私は、この認定司法書士という制度には、大きな欠陥があると考えています。司法書士という仕事ではなく、システムについての欠陥です。

 まず、弁護士と司法書士の業務の違いですが、司法書士って何をしてくれる人か、よく分からないという方がいるかもしれません。
 この点、以前は司法書士は登記を扱う専門家で、具体的には主に、土地や建物などの不動産取引によって、不動産登記簿上の権利関係が変わったり、会社の社長など役員に変更があったときに、これを商業登記簿に反映させる手続きをしていました。弁護士と司法書士の住み分けはかなり明確にできていたと思います。
 しかし、10年ほど前から認定試験に合格した認定司法書士が誕生してから状況は一変しました。認定司法書士は、簡裁代理権が与えられて、簡易裁判所で扱える裁判、すなわち140万円までの規模の裁判に限っては、弁護士も司法書士も区別なく代理人として法廷に立てることになったのです。
 時を同じくして、消費者金融に対する過払い事件が最盛期になりましたから、それまでの制度ではあり得なかった大きな売上を、簡単に計上する司法書士さんが増えました。「人生のボーナスを取り戻しましょう!」などと派手な宣伝をされている司法書士事務所の広告をご覧になられた方は多いでしょうが、それはこの認定司法書士制度を利用した過払金請求によるものです。

 私は、この制度に欠陥があると思っているわけですが、それは、弁護士と司法書士の業務の綱引きは置いておくとしても、顧客となる一般市民に迷惑がかかる可能性があるからです。すなわち、過払金請求事件でも、冒頭の交通事故による損害賠償請求事件でも構わないですが、顧客は、請求できる金額が増えれば増えるほどメリットがあることは明白であるのに対して、司法書士は、請求額が一定のライン…すなわち簡裁の代理人と扱える140万円を超えたところで、理論的にはその事件を扱えなくなるため、顧客と司法書士との利害が一致しないおそれがあるということです。一生懸命損害を訴える依頼者の前で、「これ以上請求が増えたら、自分はこの事件を扱えなくなるから報酬がもらえないなぁ…困ったなぁ」ということを考えている専門家が万が一いるとしたら、皆さんは安心して相談できるでしょうか?利害が一致しない専門家が依頼者のために万全を期することは構造的に難しいし、少なくとも、潔癖な方が万全を期していても、意図的に請求金額を押さえているのではないかと疑われて、公正らしさに欠ける可能性があることが問題なのだと思います。
 かと言って、相談していた司法書士が非常に誠実な方だとしても、以前から相談していた専門家から、検討した結果、司法書士である自分では取り扱えない請求金額であることが判明したので、今から別の弁護士を探して下さい、と途中で断られても、顧客の方も困るはずです。
 司法書士にとっても、顧客にとっても中途半端な仕組みなのです。

 要するに、取扱い分野を量で区別する制度など全くナンセンスで、ここには致命的な欠陥があるというのが私の考えです。〇〇円までの規模の仕事は扱えるけど、〇〇円を超えたら扱えないような、中途半端な専門家制度を、どうして作ってしまったか…ちょっと考えたら、困るのは事情を知らない顧客であることが分かるはずだと思うのですが、全く不思議な話です。
 取り扱える仕事の範囲は基本的に質的に区別するべきであって、これを量的に区別すると、不合理になってしまうことがあるのだと思います。
 できるかどうかは別にして、もし司法書士さんに法廷代理権を認めるなら、〇〇円までは扱えるというような量的な制限ではなくて、例えば過払金請求事件は全て扱えるけど、損害賠償請求事件は一切扱えないとか、そのような質的な区別をする方がまだ合理性があったと思います。それなら、各事件ごとで顧客との利害は一致して、顧客に不利益はないはずですから。

 冒頭の司法書士さんにも、やんわりと損害が増える方が依頼者にはメリットがあることを指摘し、話を聞いていた別の方も、弁護士に任せた方がいいんじゃないかとアドバイスされていましたが、これが解決すると△△円も報酬貰えるしなぁと悩んでおられました。
 その誘惑は、その仕事で生計を立てなくてはならない人間としては当然だと思います。だからこそ、私は、司法書士さん個人の問題ではなく、制度の方を変えなくてはならないのだと思っています。