先週、横浜地方検察庁川崎支部において、弁護士と接見中の被疑者が逃走しました。既に被疑者は身柄を確保されましたが、被疑事実が粗暴犯でしたから、近隣住民や被害者の方の不安は大きかったと思います。
 警察も必死で被疑者を捜索して事なきを得ましたが、なぜ警察や検察は、このような大失態を犯してしまったのか?そもそも逮捕された被疑者が逃走する機会など、それ程あるものなのか、素朴な疑問を感じられた方が多いようで、被疑者との接見の仕方や逃走の可能性について、質問を受けたので説明します。

 たしかに、警察や検察による取調べ時や、弁護士との接見時には、被疑者の手錠は外されます。被疑者が威圧されて、自由な発言ができなくなることを防ぐためです。したがって、身柄確保の強度が格段に緩められる被疑者にとっては、逃走のチャンスが大きく、そこは捜査機関側も対策を講じています。ただ、そのレベルには違いがあり、私の知る限りでは、①警察署内の代用監獄や拘置所などの施設と、②検察庁の施設では、被疑者の逃走の機会にはかなりの差異があると思います。被疑者にとっては、今回のような検察庁での取調べや接見の方が逃走できるチャンスは大きいということです。
 まず、弁護士が被疑者と接見する際、①では、通常専用の接見室があるのですが、これは個々の接見室が施錠されているだけでなく、そこに至る通路との出入口もしっかり施錠されていて、いわば二重に施錠されて管理された室内で面談をするため、逃走は至難の技です。
 他方、②では、そのような専用の接見室がなく、警察官同席の元で、施錠されていない通常の部屋を使用することが多いです。これは、弁護士の接見だけでなく、検事による通常の取調べでも、ほぼ同様ですから、検察庁における被疑者の身柄確保の強度は、警察と比べて全般的に緩いところがあると言わざるを得ないように思います。逮捕後身柄を拘束されて、既に警察でがっつりお灸を据えられてから連行された被疑者が、日本の訴追機関のトップに位置する検察庁から、まさか逃走を試みるはずがないという、認識の甘さがあるのかもしれないです。

 また、単純に付き添った警察官や席を外した検察事務官の危機意識の低さも、今回の被疑者の逃走を可能ならしめた理由です。
 私は、司法修習生の刑事裁判修習中に、毎回法廷で大暴れをして(裁判を傍聴された方なら分かると思いますが、刑事裁判時においても、接見や取調べ時と同じく被告人の手錠は外されて、その代わり逃走を防ぐための警察官が付き添います)、必ず裁判官から退廷を命じられる被告人の裁判を傍聴したことがありますが、裁判の回数を重ねるごとに、この被告人の脇を固める警察官の人数が増えていき、通常2人で付き添うところを、最後には7~8人の警察官が物々しく取り囲んでいたことを覚えています。余りにも過大な圧力をかけることは、被告人の公正な裁判を受ける権利との関係で問題ですが、事案によっては、このような危機意識を持って、それに応じた逃走防止の対策を講じることができるわけですから、やはり今回のケースでは、警察や検察は、被疑者を甘く見ていたというか、危機意識が低すぎたのだろうと思います。

 今回の事件を受けて、検察庁は専用の接見室を設けるなど、従来の取扱いを改善するようですが、このような事件になる前から危機管理を徹底してもらう必要がありますね。