先日、顧問先の新年会にお招きいただいたのですが、そこで、現役の世界ミニマム級チャンピオン高山勝成さんがサプライズゲストとして登場され、たくさんの貴重なお話を聞かせていただきました。
 また、このご縁で、昨日大阪のホテルで開かれた初防衛祝勝会にも出席させていただきました。

   

 私は、昔の辰吉丈一郎さんの試合などをよく観ていたので、ボクシングに関心はあるのですが、最近は忙しさもあって、そこまで熱心に観ることができていませんでした。そのため、高山さんのことも詳しくは存じ上げていなかったのですが、日本人として初めてWBA(世界ボクシング協会)、WBC(世界ボクシング評議会)、IBF(国際ボクシング連盟)という3団体の世界チャンピオンに輝き、昨年12月にIBF世界タイトルを防衛されたばかりで、今年は更にWBO(世界ボクシング機構)を含めた前人未到の4団体制覇を狙っている、ものすごいボクサーであることを知りました。
 実は、全ボクサーの目標である世界チャンピオンは、世界に存在する4つの団体に1人ずつ、同一階級に合計4人いることが通常です。「世界王者はただ1人」という、本来の勝負の本質とは違う現実がボクシングの世界にはあるため、「真の世界チャンピオン」であることを証明しようと4団体完全制覇の目標を掲げた人こそが、この高山さんでした。ところが、当時日本ボクシングコミッションはWBAとWBCしか認可していなかったため(私も、今回お話を聞くまで、世界にはWBAとWBCという、日本でよく耳にする2団体しか存在しないと思っていました)、高山さんがIBFとWBOに挑戦するためには、日本で引退届を出して、フリーになる必要がありました。しかし、それでは国内の所属がなくなるため、マッチメイクのルートもなくなって、スポンサーや練習場の確保すらできない危険極まりない状態となり、そのような大きなリスクを冒してまで、悲壮なチャレンジに挑むボクサーはほぼ皆無でした。高山さんは、ワールドチャレンジボクシングと呼ばれる、このリスキーな修羅の途を選ばれ、完全アウェーの南アフリカなど、主に海外の発展途上国において、挑戦者決定戦などのビッグマッチを制してきました。南アフリカでの地元の人気ボクサーとの試合では、現地の関係者から「命の保証はできない」とまではっきり言われたように、実際に何度か生命の危機を感じながら、海外で文字通りの修羅場をくぐり抜けて、先日日本ボクシングコミッションがようやくIBFを認可したため、実に4年振りに国内で試合をすることができたそうです。
 正に「ボクシングの鬼」で、祝勝会でも、皆さんが高山さんの技術や体力以上に、その精神力や信念の絶対的な強さを称賛されていました。

 さて、実際にお話してみると、高山さんはとても気さくな方で、こんな好青年が殴り合いの世界で頂点を極められるものかな…と思わせるくらい、紳士的で丁寧な受け答えをされます。しかし、話がひとたびボクシングのことに及ぶと、眼光鋭く、熱い口調で、ボクサーとしての自分のこだわりや夢を語られるので、やはり内に秘めた熱い闘争心を感じざるにはいられませんでした。
 高山さんは、南アフリカでの殺気立った試合など、普段聞くことができない面白い話をして下さいましたが、その中でも、私には減量のお話が興味深かったです。
 まず、そもそも私は、世界チャンピオンともなると、周りにトレーナーや栄養士が付きっきりで、今日の献立はこうだとか、カロリーオーバーだから明日のおかずは一品減らすとか、完璧な管理をしてもらえると思っていましたが、高山さんの場合、ほとんど自分で食事を考えて、自分でコントロールされるらしいです。
 私は、有名なボクシング漫画「あしたのジョー」が大好きで、身体が大きく成長していく中で、矢吹丈がこだわりのあるバンタム級に留まるために、壮絶な減量に苦しんだシーンの印象が強かったので、セルフコントロールでうまく行くものなのか尋ねたところ、高山さんは十代後半から、もう十年以上も、そうやって105ポンド(47.627キログラム)以下という最軽量のミニマム級の体重を維持されてきたことを伺って大変驚きました。十代後半から二十代前半だと、まだ成長期の人もいるから、本当に辛いときがあるだろうし、あまりのストレスで、「減量なんか、もうや~めた」と、たまにはやけ食いしたり、甘いケーキをばりばり食べたい衝動に駆られないのか、私なら絶対にそうなる自信があったので、色々と尋ねたのですが、高山さんは、自分が世界一になると決めた目標のためだし、あとで自分がきつくなるだけだから、と笑っていました。これぞ筋金入りの鋼の精神というか、圧倒的な意志の強さを感じました。
 それでも私は食い下がって、高山さんに、マクドナルドとか、いわゆるジャンクフード系を食べたことはないのか、また食べてみたいと思わないのか、質問してみたところ、「マクドナルド、食べますよ!」と笑顔で話され、試合が終わってから3日間だけは好きなものを食べることにしているので、実はその間に、好きなように牛丼やハンバーガーを食べることをとても楽しみにしている、とおっしゃていました。但し、その3日間のささやかな宴が終わると、また過酷なトレーニングと苦しくて孤独な減量との闘いの日々に戻るのです。

 世界の頂点を極める人は、やはりものすごいですね。
 自分が立てた誓いのためには、どんなに苦しくても常に自分をコントロールできるから、強い人であり続けるのだと思いました。ただひたすらに、遥か遠くの最強という世界の頂きを目指して、真っ直ぐに、真摯に努力と節制を続ける気持ちの強さに、私は気高さを感じました。それと同時に、それだけ努力と節制を重ねても、試合に勝てるかは分からないわけで、無惨にKOされるかもしれないけれど、自分を信じてやり続けるひたむきさには、美しさすら感じました。
 「勝者のメンタリティ」という言葉がありますが、それにリアルに触れることができたというか、世界の頂点を極める人というのは、結局ここまでの気持ちの強さや覚悟を持っている人なんだと、頂きからの景色を少しだけ垣間見せていただけたようで嬉しかったです。高山さんからいただいた色紙には、「己に勝つ」というメッセージが添えられていましたが、高山さんから声を掛けられると、鼓舞される説得力が違うし、まず己に打ち克てなければ何も始まらないという、ACミランに移籍した本田圭佑選手の言葉とも重なりますね(本田圭佑とジャイアント馬場の言葉)。

   

 私は、とても高山さんみたいには自分に厳しくなれないですが、高山さんのお話を聞いて、自分にできる範囲でいいから、改めて自分と向き合うこと、自分に問い掛けること、まずは自分と勝負することが本当に大切だと感じました。
 次回は、ボクサーの結婚感など、高山チャンプにお伺いした興味深いお話を、もう少し書いてみます。