アクティブイノベーションウエスト代表弁護士の木下です。
先日、栃木県鹿沼市でクレーン車が小学生の列に突っ込んで、児童6人が亡くなるという痛ましい交通事故がありました。当初居眠り運転が原因と報道されましたが、その後運転手にはてんかんの持病があり、事故当時には意識がなかった可能性があることが判明しました。事故原因として、てんかんによる意識障害は居眠りとは全く別のものです。予め事故を引き起こす危険があることは分かっていたことで、事前に回避することもできたわけですから。ところが、この運転手は、数年前にも同様の事故で児童に重傷を負わせていたにもかかわらず、居眠り運転で済ませて免許を持ち続け、会社も彼にクレーン車の運転をさせていたようです。誰かがこのような人物の運転を止めさせて、事故を防ぐことはできなかったのでしょうか?運転免許の取消に関するチェックシステムはどうなっているのか、疑問に感じられた方も多いと思います。
この点、道路交通法(通称「道交法」)第90条1項本文は、運転免許試験の合格者に対しては免許を付与しなければならないとしながらも、但書1号において、発作により意識障害をもたらす病気などを抱える者に対しては免許を付与しないことができると規定されています。つまり、運転に障害がある者に対して、あくまで例外的に免許を付与しないわけで、該当者からの自己申告を待つ仕組みなのです。したがって、今回の運転手のように、自己に不利な情報を申告しなければ、とりあえず免許は与えられてしまって、後日事故などで申告漏れが発覚すれば、そのときに免許取消になるという構造になっています(道交法第103条1項)。
一方、運送業を始めとして、業務上従業員による車両の運転が不可欠な会社がありますが、その多くは公的に発行された免許証という資格を信用して、持病の有無など運転の適性について、独自の調査までは実施していません。今回事故を起こした会社も、「免許証があるので大丈夫だと考えた。持病を知っていれば事故は防げたかもしれない。」と述べているようです。
とすると、現状では、国は免許付与時に意識障害の病気の調査まではできないと述べ、他方会社は国が交付した免許証を信用するのは当然だと述べて、責任の押し付け合いになるだけです。これでは、いつまでたっても、本件のような事故を防げないです。たしかに国が免許付与時に、一律に診断書などを添付させて持病をチェックするのは非現実的ですし、他方車両を使う全ての会社が代わりにこれをチェックするのも負担が大きいでしょうが、安全を確保するために、どこかで調整せざるを得ないです。個人的には、少なくとも今回のクレーン車のような危険性の高い車両を日常的に扱う会社が、国や運転手に全責任を転嫁するかのようなコメントをすることには違和感を覚えました。私は、一定数の車両や危険性の高い大型車両を保有する会社には、免許証の確認だけではなく、従業員の持病の有無を含む安全運転確保のための独自の調査を実施させるべきだと考えています。そのような会社では、性質上車両の運転に伴う危険性が特に大きく、多少繁雑になっても、未然にその防止に努める義務があると思うからです。
なお、一定の会社における独自調査の必要性に言及しましたが、企業法務の観点から言うと、個人情報保護法がありますから、会社は従業員の病気などのセンシティブ情報の取得には慎重になります。私も、「労務管理と個人情報保護」というテーマで講演をしたことがありますが、トラブルのもとになりますから、会社としては従業員のプライバシーに過度に直結する個人情報は入手しないことが望ましいのです。ですから、従業員の持病の調査などは、会社としても極力敬遠したい気持ちはよく分かりますが、それも時と場合によりますよね。業務上多数の車両や危険性の高い大型車両を使用する会社は、車が「走る凶器」となることを十分に理解して、責任を持って従業員の調査を実施し、入手したセンシティブ情報をきちんと管理しなくてはならないと思います。