アクティブイノベーションウエスト代表弁護士の木下です。
先日、富山県などの焼肉チェーン店で集団食中毒が発生し、4人の方が亡くなるとともに100人以上の方が発症されました。生肉のユッケに付着していた腸管出血性大腸菌O―111が原因のようです。
ところが、この焼肉店の社長は最初の記者会見において、法律は遵守していたと述べていました。飲食店における生肉の販売規制はどうなっているのか、整理しておきたいと思います。
まず、飲食に起因する衛生上の危害の発生を防止し、国民の健康を守るための法律として、食品衛生法があります(食品衛生法第1条)。そこでは、販売用の食品や添加物について、清潔で衛生的であることが求められていて(同法第5条)、例えば特定の伝染病にかかった獣畜の肉や乳などの販売は禁止されています(同法第9条第1項)。これに違反すると3年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処されますから(同法第71条第1項第1号)、厳しい強制力があるといえます。しかしながら、現行の食品衛生法には、生肉の販売方法に関する規制までは設けられていませんでした。
そこで、法律に代わるものとして、厚生労働省が生食用肉の衛生基準を設けたり、多数の焼肉店が加盟する全国焼肉協会がユッケの製造マニュアルを作るなどしていましたが、これらには食品衛生法のような罰則による強制力がなく、結局のところ、販売する側の良心に委ねられていたわけです。生肉をユッケに調理する際、この焼肉店が細菌を除去するために肉の表面を削り取る作業(トリミング)を怠っており、これが上記衛生基準違反であるにもかかわらず、簡単に業務上過失致死傷罪で立件できるかどうか分からないと危惧されているのは、このためです。
今回、一番最初の記者会見において、この焼肉店の社長が強調していたのは、まさしくこの点でした。自分達は法律に従って食品を提供していたのであって、同業他社も似たり寄ったりの営業方法であるということです。亡くなった方には気の毒だが、どちらかというと我々はアンラッキーだったという論調に聞こえて、半ば逆ギレ気味に怒鳴り散らすような映像は、後日、遺族からもこの記者会見を批判するコメントが出されたように、典型的な「やってはいけない」記者会見だったと思います。
ただ、会見が適切だったかどうかはともかく、私としては、そのような認識の飲食業者の自主性に食品管理を任せている現行法の杜撰さが本当に恐ろしいと感じました。私にも、飲食店を経営している知人が何人かいますが、人が口にして体内に取り込む食品を扱っていることには、かなり神経を配っています。勿論、大多数の飲食業者は、そのように真面目に経営をされていて、現行法はそのような人達を前提に作成されたのでしょうが、気軽に外食する習慣が定着した現代社会では、このような性善説に基づく規制は、もはや限界に来ているように思います。刺身に代表されるように、日本には生の食材を好む食文化がありますし、その他にも近年はアレルギー系の病気を引き起こす食材が増えていますが、反対にこれらを取り扱う飲食店の出店は、特殊な許認可を必要とするものではなく、比較的容易に出店できてしまうからです。
今回の集団食中毒を受けて、ようやく厚生労働省も、罰則のある食品衛生法に基づいて、牛肉などを生食として販売する際の新たな基準を作成するようですが、飲食店の管理のように、残念ながら完全な性善説を前提にはできず、きちんと法律による規制をしていかざるを得ない分野がまだまだ存在することは、否定できないように思います。