先週、函館市によって、大間原子力発電所の建設差止訴訟が提起されました。
 これは社会的にも実務的にも、非常に注目の裁判になりますから、今日は私なりにその注目すべきポイントを説明してみます。

 まず、私は函館という街が好きで、一時期3年連続ほどで観光に訪れたことがあります。また、大学時代には下北半島の恐山から大間岬までドライブして、本州最北端の碑を訪ねたこともありますから、実質的にこの両者の自治体が裁判で争うことになったのは非常に残念です。
 大間原発差止訴訟は、私にとって、このように個人的に観光したことがあるという理由があるのですが、これに加えて、もう1つ注目している理由があります。それは、私もUSJことユニバーサルスタジオジャパンの開園差止訴訟という、類似の超大型の差止裁判を経験していて、そのときの訴訟活動の記憶と、どうしても重なるところがあるからです。

 私がUSJ側で関与したUSJ開園差止の裁判では、正確にはUSJの建設予定地の一部が産業廃棄物処理場の跡地であることが問題となりました。勿論、USJはきちんと施設の処理をしてから埋め立てをして、開園準備を進めていたのですが、まだ土地の汚染が残存している疑いがあるという理由で、一度土地を深く掘り下げて、綺麗な土地と入れ替えるように要求があり、実質的には開園の差止がなされたのに等しい裁判でした。
 このときの被保全権利も環境権や人格権でしたが、これが侵害される可能性があるかどうかは、陸、空、水とあらゆる拡散ルートから、様々な専門的検証を加えて判断される必要があります。
 まず土地の汚染そのものが論点となり、USJ側としては、これが決して汚れていないことや仮に僅かな汚染があったとしても、地中のルートから拡散する危険がないことを証明します。次に、空気拡散する可能性や地下水の流れからも拡散する可能性がないことを検証し、安全対策は尽くされていて、環境権や人格権の侵害はないことを主張していくわけです。このため、我々弁護士のグループは環境工学を専門とする大学教授を訪ねて、産業廃棄物の物質の特徴から水脈や水流の知識に至るまで幅広く学び、これをUSJの土地に当てはめて、環境工学上安全は万全で、USJを開園営業させることに何の心配もないことの膨大な反論を完成させました。
 基本的に、弁護士は文系人間ですから、化学物質の記号や難解な環境工学の数式を理解して、裁判所に分かりやすく説明するために悪戦苦闘したことを覚えています。
 そのような攻防を経て、汚染による差し止めの必要が否定されて、無事にオープンしたのが現在のUSJです。したがって、大間原発訴訟においても、類似の攻防が争点となり、特に空、水に関する専門的な解説が鋭く対立するでしょう。具体的には、津軽湾という海峡を隔てての差止訴訟になりますから、偏西風や海流などの影響から、原発リスクがどこまで及ぶのか、その被保全権利たる環境権や人格権の保護範囲が大きな争点の一つになるだろうと思います。

 冒頭で、大間原発差止訴訟は社会的にも実務的にも注目の裁判であることは申し上げました。それは自治体による初の差止訴訟が珍しく、社会的な注目を浴びているだけでなく、以上の説明で、このように海峡を挟んだ海流などを争点とする初めての本格的な環境訴訟になるため、実務的にも注目を浴びているからであることがご理解いただけるはずです。
 そのような司法実務的な観点にも注目して、日本のエネルギー政策の未来を左右するかもしれない、この大きな裁判の行方を注視していただきたいと思います。