吉野屋ホールディングスから、株主宛の決算報告書が送られてきました。
私は、牛丼の「吉野屋」が好きです。
吉野屋が好きな理由は、牛丼店の中で一番美味しいと思うから…今、唯一株を所有している上場会社で株主優待券が配られるから…など、いくつかの理由がありますが、やはり最大の理由は、私が大学受験の頃、初めて勤めたアルバイト先が吉野屋で、愛着があるからです。
私が吉野屋でアルバイトをしていたのは、25年以上も前になりますが、その頃の吉野屋は牛丼しかメインメニューがありませんでした。サイドメニューも味噌汁とお新香と卵だけで、スタッフも客も男だけのあか抜けない硬派のお店でした。
若い女性が来店することは稀でしたから、毎週一人で来店して並盛を注文する女子大生風の女性は、その珍しさから、秘かに「並み一丁ギャル」と命名され、スタッフの間ではアイドル扱いされていました。
当時吉野屋はレジがなく、会計は全て暗算ですることになっていました。
牛丼の並盛が370円だったので、店員は入店後すぐに370の倍数を徹底的に叩き込まれました。そうすると、団体客がまとめて会計をしても容易に対応できるからです。当時牛丼の大盛は470円でしたから、全ての丼の数に370を掛けて、最後に大盛の数だけ100円増しにして足せばすぐに暗算できるというわけです。
私が暗算で370…740…1110…1480と、今でも370の倍数だけが何故かスラスラと諳じられるのは、そのときの名残です。
私は、このアルバイトの機会に、「つゆだく」、「つゆ抜き」、「ネギだく」、「ネギ抜き」、「かる盛り」など、吉野屋にはメニューに載っていない隠しオーダーがあることを教わりました。
「つゆ抜き」のオーダーをされたお客さんは一度しか出くわしませんでしたが、「つゆだく」や「ネギ抜き」のオーダーは時々ありました。それでも「つゆだく」がまだ世間に知られていない時代でしたから、大学入学後、友人らと吉野屋に行って、私だけ「つゆだく」を注文したら、それは何だと友人らが騒ぎだし、得意気に隠しオーダーを教えてあげたことを覚えています。
その後、当時人気絶頂の歌手華原朋美さんが吉野屋の「つゆだく」が好きだとメディアで公言してから、「つゆだく」は隠れオーダーではなくなり、女性の来客も一気に増えて、吉野屋は男の園ではなくなりました。
吉野屋は狂牛病騒動の渦中でも、頑なに牛丼に適したアメリカ産牛肉の使用にこだわり、なかなか牛丼の販売を再開しませんでしたが、私は一時的に肉よりも、むしろタレの味が落ちたようで不満に感じたときがありました。並盛一杯280円と、吉野屋がちょうど低価格路線を歩んでいた時期です。
吉野屋のタレは、本部で赤ワインなどを配合済みの真空パックが送られて来るので、それを大鍋に継ぎ足すだけです。したがって、どの店舗もタレの味は同じですから、もともと本部で作られるタレのコクが少し弱くなったと思うのですが、吉野屋の牛丼が更に美味しくなりました…とアピールを始めた昨年くらいから、昔のレベルに回復したと思います。
もっとも、厳密に言うと、各店舗ごとに大鍋を管理している肉盛りの担当の感性で、微妙にタレの味は変わります。常に火がかかっている大鍋に、どのタイミングでオリジナルのタレを継ぎ足すかで、タレの濃さが異なるからです。
私がアルバイトをしていた大阪の天王寺のお店は、比較的人手不足で、時々他店から応援が来ていましたが、肉盛りをしていた応援スタッフが帰った後、店長が出勤して来て、大鍋のタレの味を確認し、「煮詰め過ぎだな。少ししょっぱいよっ!誰が大鍋を管理してたんや!!」と怒っていたことがあります。
このように、肉盛り担当によってタレの味は微妙に変わるだけでなく、盛り付けにも若干の差が出ることがあります。
私は、高校の同級生の友人と一緒にアルバイトに入っていて、私たちは3ヶ月過ぎから肉盛りを担当させてもらいましたが、当初、私の盛り付けは肉量が多すぎるし、私の友人の盛り付けは肉量が少なすぎて、どちらもダメだと店長に怒られました。そういえば、私の友人が盛った牛丼に対して、一度だけお客さんから、「兄ちゃん、これ肉が少ないんとちゃうか!」とクレームを言われたことがありました。その後、店内で、そんな文句を言っている客を見たことがありませんから、申し訳なかったですが、店長の指導もあって、何とか我々も一人前のアルバイトになりました。
カウンター席に牛丼を配膳して、厨房に戻るときに、よく周囲を観察して、なるべく手ぶらで帰らないこと。帰りに空いてる丼を下げる…少なくなったお客さんのお茶を継ぎ足す…汚れたテーブルの上を拭くなど、気を配ればいくらでもやることはある。一度のカウンター席への往復で効率良く稼動するためには、とにかく視野を広く保って、情報を拾うことが大切だと、店長は教えてくれました。このときの店長からのアドバイスは、今も確実に仕事に生きていると思うので、感謝しています。
最近は、鍋物やカレー、鰻など、メニューを増やした吉野屋ですが、「アタマの大盛」は良いメニューだと思います。ご飯は並盛で牛肉が大盛りの組合せにしたレギュラーメニューです。
牛丼の小盛とサラダをセットにしたコモサラダも女性客向けで、なかなか良いアイディアだと思います。
時代の変化とともに、顧客のニーズに応える工夫は当然必要でしょうが、キムチやチーズなど様々な具材を乗せた変わり牛丼よりも、やはり吉野屋にはシンプルな牛丼一筋の硬派なカラーを守りながら、これからも繁栄して欲しいと思います。
少しお腹が空いたので、「アタマの大盛」を食べたくなりました。
今日のお昼は吉野屋に行って来ます!


