アクティブイノベーションウエスト代表弁護士の木下です。

   先日、通貨オプションの為替取引を巡る被害セミナーに参加しました。数年前に銀行が販売したこの商品のために、本業が好調な多くの優良企業が倒産の危機に直面しています。昨年11月22日に国会で質疑応答が交わされ、金融庁が実態調査に乗り出してから、テレビや新聞で特集が組まれる回数が増えてきました。今後、更にクローズアップされると思います。

   通貨オプションは、為替リスクの回避を売り言葉に銀行が販売した商品ですが、基本的な仕組みは、一定の期間に、一定の金額で、一定の数量の外貨を売買する権利(買う権利を「コールオプション」、売る権利を「プットオプション」といいます)を買ったり売ったりするものです。初めて聞く方には分かりにくいでしょうが、買う権利や売る権利を直接の商品として、これを買ったり売ったりするわけです。そして問題となっている取引は、基本的に買う権利を買って、売る権利を売っている複合型であることが多いです。外貨を買う権利を買っておけば、たしかに円安時のリスクヘッジにはなります。しかしながら、他方、外貨を売る権利を売れば、反対に外貨を買う義務が発生するようなもので(売る権利を売るということは、こちらに買う義務が発生するリスクが生じるわけです)、円高時には損失が拡大するリスクがあります。これだけでも十分ややこしい取引なのに、これに外貨が一定の金額に達すると契約が終了する「ノックアウト条件」や、外貨が一定のトリガー価格に達すると損失が拡大する「ギャップレート」などの更に投機性の高い特約が設定されることがあるため、ますます複雑な契約になります。これらの特約は、エキゾチックオプションと呼ばれて、基本的に銀行の儲けが大きくなったり、銀行の損失が小さくなるようにできています。
   この点、金融商品取引法第40条1号は、顧客の知識、経験、財産状況や契約を締結する目的に照らして、不適当な勧誘を行ってはならないと規定されています。これは適合性の原則と呼ばれるもので、これに違反すると、損害賠償責任が認められます。銀行の勧誘を受けて通貨オプション取引をした会社の中には、商社を経由しており、直接為替リスクを冒して輸入をしていなかった会社もあり、外貨実需がない会社への販売は適合性原則に違反する可能性が高いです。
   しかし、そもそも外貨実需以前に、この通貨オプション取引は、為替リスクヘッジに役立っておらず、むしろリスクを増大させるリスクテイクの契約になってしまっているところが最大の問題だとされています。要するに、商品自体に欠陥があるわけで、外貨実需の有無にかかわらず、契約の文言通りの責任を負う必要はないという考え方が有力になっているのです。

   何故、多くの優良企業がこのように危険な商品を買ってしまったのでしょうか?銀行の説明不足や日頃のお付き合いから断りきれなかった事情もあるでしょうが、実はこれらがゼロコスト型と呼ばれるタダの商品であったことにも原因があるとされています。つまり、ここでは売買の対象が売ったり買ったりする権利というオプションであって、車やマンションなどの形のある商品ではないですから分かりにくいですが、れっきとした売買なわけですから、本来であれば、会社はリスクヘッジ目的で外貨を買う権利というオプションを買うために、オプション料金と呼ばれる売買代金を支払わなくてはならないのです。ところが、このゼロコスト型では、オプション料金は発生しません。その代わりに、先程述べたとおり外貨を売る権利を売る複合型の契約を交わされていて、このお互いのオプションの売買を相殺してタダになっているわけです。
   仮に、オプション料金が毎月100万円かかるとか言われると、費用対効果は計算できますが、タダとなるとコスト意識が極端に薄くなるものです。通貨オプションは、このコスト意識とともに下がったのリスク意識の低下を巧みに突いた危険な欠陥商品です。タダでリスクヘッジになると思っていたら、同時に売る権利を売らされていた会社は、現在の円高のもと、莫大な損になる外貨を買わされ続けているのです。まさにタダより恐いものはないわけですね。

   もっとも、先程述べたように、この問題は商品自体に欠陥が認められつつあり、正しい方法論に従えば、日常の融資について不利益な報復を受けることを回避しながら、損害の応分の負担について銀行と交渉できる余地があります。私達の弁護士法人でも、既にご相談を受けていて交渉中の案件があります。自分達が契約したのだから仕方がないと、毎年億単位の莫大な為替差損を計上し続けている会社もありますが、通貨オプションの知識をしっかり持っている弁護士が交渉すれば解決する可能性がありますから、諦めないで是非ご相談下さい。