アクティブイノベーションウエスト代表弁護士の木下です。
プロゴルファー片山晋呉さんの離婚調停が始まるようです。第一回調停期日は平成23年6月28日で、報道によると、夫人側は5億円の慰謝料を請求するそうです。
片山プロといえば、国内ツアー26勝で永久シード権を持っていて、これまでに5回の賞金王に輝いている超一流のプロゴルファーです。体格的に恵まれているとはいえない片山プロは飛距離より徹底した正確性で勝負するタイプで、比較的地味な賞金王の印象でしたから、ジャンボ尾崎プロや近年の石川遼プロのようなスター性には乏しいかもしれません。しかし、コツコツと努力する姿勢は凄まじいらしく、等身大のトッププロだけに、我々ゴルフ好きのアマチュアがお手本にさせていただく機会が多いプロゴルファーです。ゴルフは見るだけという奥様方にとっては、プロゴルファーと言えば夢のある石川遼でも、実際にゴルフをする我々おじさんにとっては、現実的な等身大のヒーローは片山晋呉なわけです(と言っても、若くて夢のある遼君も勿論好きですが)。
さて、5億円の慰謝料と報道されていますが、いかに収入があっても、日本の裁判基準で5億円全ての慰謝料は考えにくく、ここで夫人が請求しようとしている金銭は、婚姻中に築いた財産を分ける財産分与と慰謝料の合計金額だと思われます。そして、夫人側は婚姻中の片山プロの収入が40億~50億円だと試算して、5億円の請求を決めたそうです。国内トップクラスの高額請求ですから、この金額が法外かどうかは、立場によって意見も分かれるでしょう。
私が中立的な立場の弁護士として、ざっくり試算すると、仮に40億円の収入があったとしても、プロゴルファーは遠征費、宿泊費、ときには専属トレーナーや栄養士など収入の半分くらいの莫大な経費がかかりますし、さらに約半分近くの税金を差し引くと、可処分所得としては10億円ほどになってしまいます。とすると、夫婦折半でその半額として5億円の請求は概ねいい線ではないかと思いました。
もっとも、夫人側の請求が認められるためには、最低でも次の二つの論点をクリアする必要があります。
一つ目は専門職の人の離婚に伴う財産分与の割合について、例外的な減額修正をさせないことです。
離婚に伴う財産分与の基準は大原則として五分五分です。マンションなどの名義を夫にしていたとしても、妻の取り分はきちんと保証されますし、専業主婦の内助の功もきちんと半分斟酌されるのが原則です。しかし、これがサラリーマンではない専門職の人の離婚となると、例外的な修正が入る場合があります。具体的には医師や俳優など個人の特別な資格や才能に基づいて、一般の人よりも多額の収入を得ているケースです。この場合、個々人の特別な資格や才能によって特段の収入を得ているのであれば、杓子定規に五分五分の折半にするだけでは、かえって不公平なケースが出てきます。したがって、そのような専門職の人の離婚については、その人の資格や才能による収入も勘案して、半分以上の財産分与が認められる例外があります(配偶者側から言うと、減額修正されることになります)。プロゴルファーもこのような専門職に当たるでしょうから、片山プロの夫人の財産分与が五分五分よりは減額される可能性もあるわけです。
もっとも、プロスポーツ選手の体調管理は非常に難しいものがあり、食生活を中心に文字通り夫人との二人三脚で好成績を納めているトップアスリートはたくさんいます。片山プロの夫人も、もともとはプロゴルファーを目指した研修生らしいですから、プロゴルファーの日常生活に何が大切かよく理解できていたはずで、そうだとすると、片山プロの才能ばかりを強調し、夫人の貢献を軽視して、安易に例外として減額修正されるべきではないでしょうから、夫人にも十分勝ち目がありそうです。
二つ目は、片山プロとの別居期間を理由にして、減額修正をさせないことです。
報道によると、片山プロ夫婦は、平成16年から片山プロがゴルフに集中するために、あえて別居生活をしていたそうです。とすると、別居期間中に、夫人が内助の功を発揮するのは難しくなり、夫人側の財産分与が減らされる可能性があります。しかしながら、その別居理由が不仲や家事の放棄ではなく、あくまで片山プロがゴルフに集中するためで、当初は別居生活がうまくいっていたのであれば、夫人に何ら落ち度はなく、原則どおりきちんと半分の財産分与を請求できそうですから、ここでも夫人には十分勝ち目がありそうです。
この点、婚姻期間中の別居をどう斟酌するかは、一般の離婚事件でも考え方が分かれる難しい問題なのですが、最近では離婚時ではなく別居を基準点として財産分与を計算する考え方が主流になっていると思います。
以上のとおり、片山プロの夫人が、離婚に伴って、可処分所得の半分に当たる5億円の請求を認められるかどうかは、最低でも上記の論点をどう判断するかによって二転三転します。「専門職の人の離婚」や「別居理由ごとの別居期間の貢献の有無」という実務上興味深い論点を含んでいますから、法曹関係者にも注目されるでしょうが、片山プロにはもう一華咲かせて、石川遼プロとの名勝負を見せていただき、是非とも本業のゴルフの方で注目を集めて欲しいと思います。