アクティブイノベーションウエスト代表弁護士の木下です。

  先月、クローズアップ現代で、「弁護士を目指したけれど…」という特集を放送していました。なかなか見る時間がなかったのですが、ようやく録画していたものを見ることができました。
  司法試験に合格したものの就職先がなくてソクドク(即独立の略。先輩弁護士の法律事務所に勤務しながら弁護士業務を学ばないで、資格取得と同時にいきなり独立開業すること)せざるを得なかった弁護士などについて論じられていました。ファーストフード並みの時給いくらというパート弁護士が登場するようになり、正に弁護士の大増員という変革期の真っ只中にいることを痛感させられる内容でした。
  このような弁護士の就職難に対応するために、今月1日から、国内初となる民間の弁護士就職支援企業が営業を開始したそうです。弁護士の就職難をテーマにした露出も増えたため、最近は一般の方にも弁護士の大増員に伴う我々の業界の厳しさがかなり認識されてきたようで、弁護士さんも大変ですねと声を掛けられる機会が増えたように思います。

  この点、私個人的には、よりリーガルサービスを浸透させるために弁護士を増員することには賛成です。しかし、急激すぎる大増員は歪みを生じ、結局は相談する市民側の不利益となって返って来てしまうように感じています。新しい弁護士が急増すると、満足に実務の仕事を覚える機会が乏しくなり、いわゆるOJT~オンザジョブトレーニング~の不足による弊害が増えるからです。
  修習や書籍で学んだ理論と実務は違いますから、私はやはりソクドクには無理があると思っています。弁護士自身がソクドクでも構わないと考えていても、依頼者に迷惑がかかる可能性は否定できません。例えば、以前ソクドクに近い女性弁護士さんが相手方代理人をされている裁判がありました。論点が多岐に渡り少し荷が重い感じでしたが、書籍で調べたりされながら一生懸命法的主張を準備されていました。何回目かの裁判期日で法的主張を裏付ける証拠の整理をしていて、裁判官から彼女に対して、ある論点の法的主張に対する証拠が出ていないから、次回までに補充するように指示があり、彼女は検討すると言って持ち帰りました。ところが、次回期日において、彼女は特に証拠の準備をすることなく裁判所に出頭し、「検討したがよく分からない。どういう証拠を出せばいいですか?」と裁判官に質問しました。これには裁判官も一瞬呆気に取られて失笑しましたが、すぐに真顔になって、「それを考えるのがあなたの仕事でしょう!?」と叱責されました。彼女にしたら大真面目で、別にふざけているわけではないのでしょうが、理論的な法的主張は書けても、それを裏付けるための証拠について、どのような手続きで調査をして、どのようにまとめて提出したら良いのか、相談できる先輩や同僚もおらず、実務的な勘所が見当もつかない様子でした。
  この事件、彼女の依頼者が不利益を被るのはまだ仕方がないとして、笑えないのはこちらにも少なからず悪影響があることです。毎回この調子で裁判がなかなか進まず、こちらの依頼者まで、解決が遅れてしまうという不利益に巻き込まれてしまうからです。

  結局、このような個々の事件の利益不利益は置いておくとしても、マクロ的な最大の問題は、弁護士の人数だけが増えても、OJTの機会が乏しいことに加えて、アクセスする市民側において、それら弁護士の経歴や得意分野などの情報がかなり限られていることです。本気で調べれば分かるのでしょうが、そこまでの負担を市民側に負わせて良いのかという点には疑問があります。
  私は、以前、合格者が何人の時代に弁護士になったのか、すぐに分かるように弁護士バッジの色を分けて欲しいと真剣に言っている人に会ったことがあります。たしかにこれも気になる情報の一つでしょうが、現在の2000人合格者時代でも優秀な若手弁護士はたくさんいますから、不合理な偏見を生むだけの差別は採用できないと思います。しかし、この方のように弁護士に関する情報に飢えている方は少なくないので、今後は単に弁護士の数を増員していくだけでなく、それらがどのような弁護士なのかを正確に知らしめて、市民側が安心して選択できる仕組みがなければ、本当の意味での司法改革は実現できないでしょう。単に数を増やすことだけで満足することなく、利用する市民側にとって有益な司法改革にしていくことを、法曹関係者は皆で考えていかなくてはならないですね。