リーガルジャパン代表弁護士の木下です。

  先日、ローマで資産家の女性が亡くなったのですが、彼女は、知人の看護師に自分の飼い猫である「トマシーノ」の世話を託して、その見返りに全ての遺産を渡す旨の遺言を残したそうです。問題はその遺産総額で、現金以外に自宅や別荘などの不動産を合わせて約1千万ユーロ(約10億円)になるというニュースを見ました。この看護師は約1年前に公園で資産家の女性と知り合い、身の回りの世話をするようになったのですが、看護師自身も猫や犬を飼っていて、その愛情溢れる様子から最適の人物として選ばれたわけです。看護師は、自分がこのような遺贈を受けることは全く知らされていなかったらしく、地元で話題になっているようです。
  この点、この資産家の女性にはもともと親戚がいなかったため、当初トマシーノに遺産を譲ろうとしていたのですが、イタリアの法律では猫に相続させることができないため断念し、弁護士と相談して、死後も愛描を大切に世話してくれる人物に相続させるべく、遺言書を作成したそうです。

  このニュースを見たときは、少し驚きました。私と同じような遺言書を作っている人がいたからです。同じというのは、改めてお断りするまでもないですが、10億円の遺産の方ではありません(笑)。自分の遺産を猫に相続させられないか、真面目に考えた経緯のことです。
  実は、以前少しお話しましたが、私も今年初めて自分の遺言書を作ってみました(思いを遺すために紡ぐために【サッカー元日本代表松田直樹選手を偲ぶ】)。私には子供がいないので、妻に全てを残すとしたところまではよいのですが、問題は夫婦同時に亡くなるときです。父母や弟に残すこともできるのですが、私としては、まず同居の家族同然に暮らしている猫達のことを考えてしまいます。この3匹のノルウェージャンフォレストキャットの名前は、「もも」、「げんき」、「だいち」と言うことは以前もお話しました(「ペットと受動喫煙」)。私達は、誕生日にはケーキで彼らのお祝いもしますし(但し、ケーキを食べるのは人間ですが…)、特にげんきとだいちは父母共通の真正の兄弟で、オス同士でもよくくっついてお互いの身体をなめ合うなど、気持ち悪いくらい仲が良いですから、人間と猫だけでなく、猫同士も家族同然に暮らしています。ですから、何かのときにはこの子達が安心して暮らせるようにしたいのです。
  

私はかなりの親バカですから、またこの猫達のことは改めてブログにアップしたいと思います。
 

さて、話を戻しますと、イタリアと同じように日本でも動物には法人格がないので、相続などの財産を承継する主体になることができません。自然人たる人間か法人などしか財産を所有する資格がないのです(民法第1条の3、第33条以外)。そこで、考えられる手法の一つとして、猫の世話をしてくれる人間に条件付きで財産を渡す方法があるわけです。これは負担付遺贈と呼ばれるもので日本の法律でも認められています(民法第1002条第1項)。私も、この負担付遺贈を使って、万が一猫達よりも先に私達夫婦が亡くなったときに、私達の財産が実質的にもも達のために使われるように遺言書を作りました。ただ、この方法ですと、受遺者が遺贈を放棄することもできるので、負担が実行されないリスクが残りますから(同条第2項本文)、目的達成のためには、より直接的な仕組みがある方が望ましいです。たとえば重度の病気や障害が原因で意思決定能力がない人のために、成年後見人を選任してその人の財産を保護する制度がありますから(民法第8条)、それとのバランスで考えると、ちょっと大胆な法案でしょうが、形式だけでも動物に法人格を認めて、裁判所の監督下でその財産管理人を置くような方法はあり得るのかもしれません。
  今後ますます家族のようにペットを大事にする家庭は増えるでしょうし、時代の変化や社会のニーズに合わせて法律や制度も改正されていきますから、願わくば近い将来、もも達やトマシーノが確実に保護されるような仕組みができるといいなと思います。