リーガルジャパン代表弁護士の木下です。
以前、当ブログにおいて、国際結婚が破綻した際の子供の扱いを定めたハーグ条約について、これまで未加盟だった日本も重い腰を上げて加盟することを決定し、遂に国内法の整備に入ったことをお話しました(日本が「拉致天国」!?【ハーグ条約批准に向けて】)。そして今週、このハーグ条約加盟のための具体的な国内法の要綱案が発表されました。
法制審議会の部会作成による要綱案によると、国際結婚の破綻後、日本人の親が子供を日本に連れ帰った場合、外国人の親による子供の返還申立ては、東京か大阪の家庭裁判所で審理されるようです。そして、この申立てが認められれば、日本の家庭裁判所は、子供を連れ帰った日本人の親に対して、自主的に一旦子供を返還するように命じることになります。
もともとハーグ条約は、幼い子供の国外への連れ去りに対して、即時無条件返還を目的にしていることは以前にもお話しましたから、その手続きを定めた国内法も、子供の返還申立てに対して、原則として返還命令が出されることはやむを得ないです。ただ、それでも今回の国内法要綱案は、子供の返還申立てを拒否できる例外を比較的緩やかに設けており、日本的な調整がなされている印象を受けました。これらの例外のうち、子供の連れ去りから一年以上が経過して子供が新たな環境に適応しているときというのは、ハーグ条約にも定めがあるものですし、形式的に判断できることですが、①子供への虐待や②返還を要求している親が子供の面倒をみていなかったときという例外は、かなり具体的な事情を審理しなくてはなりませんから難解な判断を迫られることになりそうです。一口に子供の連れ去りと言っても事情は様々なわけで、形式的かつ機械的な判断によって理不尽な結末とならないように、慎重に吟味しようとするのはいかにも日本的で素晴らしいと思うのですが、詳細すぎる審理に踏み込んでしまうと、事情はどうあれ実力行使を許さず、法治国家のルールに従って一旦子供を即時返還させるというハーグ条約の理念に外れないのか、やや心配な側面もあります。この辺りは今後の運用を見守りたいと思います。
日本的といえば、今回の要綱案では強制執行の仕方にも特色がありました。
通常、強制執行には直接強制や間接強制と呼ばれる方法があります。直接強制とは、執行機関の執行行為により債務者の協力なしに、債権者の請求内容を直接実現する執行行為です。子供の返還命令の直接強制だと、執行官が家に乗り込んで、子供を親から引き離して連れ出すことになります。国家が承認する連れ去りみたいで、余り穏やかではないですよね。他方、間接強制とは、債務者に不利益を予告して心理的圧迫を加え、債務者自ら債務を履行するように仕向ける方法による執行行為です。子供の返還の間接強制だと、自主的に子供を返さないと、一日ごとにいくらの損害金を課金することを予告して、子供の返還を促すことになります。
従来、日本では子供の引き渡しには間接強制が主流でした。直接強制は子供の心の傷になり、精神的負担が大き過ぎる心配があったからです。しかし、間接強制ではなかなか返還に応じない親もいて、諸外国にはいきなり直接強制から入る国もあるため、近年日本でも直接強制を認める割合が多くなっていました。
このような歴史的背景もある中で、今回の国内法要綱案は、まず間接強制を先行させて、返還命令に自主的に応じない場合、ペナルティーの支払を命じ、2週間経っても従わない場合、次は裁判所の執行官が強制的に住居に立ち入って、子供を引き離す直接強制に移行する流れになったようです。なるべく和を持って解決しようとする日本的な調整で、段階的に強制力を強めていく手法は良いことだと思いました。
子供を連れ帰る方法しか対策がなかった社会的弱者(多くは日本人妻)の拠り所を奪うものとして、長年ハーグ条約の加盟には根強い反対意見もありましたが、他国とのバランスなどから加盟が決まって、国内法が成立するのであれば、このような日本的なきめ細かい調整を運用上も定着させて、是非とも妥当な解決例を積み上げていって欲しいと思います。