リーガルジャパン代表弁護士の木下です。
平成24年1月31日付で、大阪弁護士会から東京弁護士会に登録換えを致しましたので、今後ともどうぞよろしくお願いします。
今週、旭川地方裁判所において、NHKが視聴者に対して未払い受信料の支払いを求めた裁判の控訴審判決がありました(この事件のように、訴額が比較的少額で簡易裁判所で第一審が開かれた場合、控訴審は地方裁判所で審理されることになります)。
報道によりますと、簡易裁判所はNHKの主張を全面的に認めて、過去約6年分に当たる約11万円の未払い受信料の支払いが命じられましたが、地方裁判所はこの判決を取り消して、定期給付債権の短期消滅時効を適用し(民法第169条)、過去5年分に限った9万3160円だけの支払いを命じたそうです。5年より前の受信料については、たとえ未払いであっても時効によって既に消滅していて、視聴者側には支払義務がないという判断です。
消滅時効については、刑事裁判でも度々その是非が議論されてきましたから、皆さんもお聞きになったことがあると思います。
この点、消滅時効で法律上の権利や義務がなくなってしまうのはフェアでないから、すべて撤廃すればよいという、アンチ時効派の意見は根強いものがあります。ただ、社会秩序維持のために国が起訴を独占する刑事手続きと異なり、民民の紛争に過ぎない民事手続きにおいては、一切消滅時効を認めないのも不合理なことが多いです。証拠となる資料の散逸や記憶力の低下などに伴って、あまりにも古い紛争を蒸し返すことは現実的ではないですし、刑事手続きとは違って、それを民民レベルで放置していることは、自己責任としてやむを得ないと評価されやすいからです。したがって、公害裁判など被害者救済のための特段の事情がある例外を除いては、今後も民事手続きにおける時効制度は維持されていくと思います。
さて、この消滅時効ですが、一般の債権の時効期間は10年と定められています(民法第167条1項)。このくらいの歳月が経過して何もなければ、もはやトラブルにはならないだろうと普通の人が考える期間の目安が大体10年ということでしょう。皆さんも友人にお金を貸したとか、銀行にお金を預けることがあると思いますが、このような貸金返還請求権や預託金返還請求権という債権も10年で時効消滅するのが原則です。今回のNHKの訴えも、この時効の一般原則に基づいていて、過去10年分までは未払い受信料を請求できるというものでした。
ところが、全ての債権の消滅時効が一律に10年と決まっているわけではなく、法律上は短期消滅時効と呼ばれるいくつかの例外が存在します。今回、旭川地方裁判所が適用した定期給付債権とは、定期に一定の金銭などを給付させることを目的とする定期金債権(民法第168条1項)から発生する支分権で、具体的には賃料や小作料などが該当します。これらの支分権は個々の支払金額も少額であることが通常だし、受領証の保存も怠られがちなので、その時効期間も短縮されたわけですが、その他で短期消滅時効として有名なのは、商事債権の時効です。ややざっくりした言い方になりますが、お商売をされている方の売掛金などは10年ではなく、5年の短期消滅時効にかかって、仮に放置したまま5年が経つと、支払いをしてもらえなくなる可能性があるということです(商法第522条)。商売上の債権債務は、順次決済していくべきもので、あまり長期間放置しておくことには馴染まないという債権の性質に基づく例外です。
このように通常の10年に比べて時効期間が5年と聞くと、随分短いと感じられるかもしれませんが、実は債権の中には更に短期の消滅時効を設けられているものがあります。「居職人…の仕事に関する債権」は2年ですし(民法第173条2号)、「旅館、料理店、飲食店…の宿泊料、飲食料…に係る債権」は1年で消滅してしまいます(民法第174条4号)。前者の「居職人」とは「出職人」に対する言葉で、自分の仕事場で他人のために仕事をする者のことです。例えば理容師などが該当します。たしかに、これら散髪代金などの債権は、取引社会の実情としては比較的短期間のうちに請求や弁済がなされて処理されているのが実情です。また、後者の飲食代金などは、それよりも更に頻繁に生じる債権であり、直ちに請求や支払いをすることが多いので、証拠も乏しくなることから、特に短い時効期間が設けられているわけです。お得意さんに所謂「つけ」で飲み食いを認めている飲食店のオーナーさんなどは要注意ですね。
今回、NHKは上告審の判断を仰ぐでしょうから、未払い受信料が短期消滅時効にかかると決まったわけではないですが、仮に時効期間が5年で確定した場合、今後かなり前倒しで未払い受信料を請求していく必要があり、債権管理の現場は相当の意識改革を迫られると思います。
ただ、私は、この事案のように、そもそも5年も6年も未払い受信料が残ってしまっていることの方が大きな問題だと考えています。我々の法人にも、不動産管理業務をされている顧問会社さんがあるのですが、私は滞納家賃が数ヶ月分を超えて、数年分に及んでしまっている案件は、払わない相手も相手だが、そこまできちんと請求してこなかったこちら側にも問題があると指導させていただいています。月10万円の家賃が数ヶ月遅れているのであれば、まだ遅滞分を分割にして支払う話し合いもできるでしょうが、これが5年分の600万円が滞納になっていると言われても、今さら払えるわけがないと相手に開き直られても致し方ないところがあるように思うからです。
いずれにしても、NHKは、普通の民民の未払い家賃と異なり、あくまで視聴者から公平に受信料を徴収しなくてはなりません。NHKの杜撰な管理のために、未払いのまま消滅時効にかかって受信料の支払義務を免れる人が続出するなら、「真面目に払っている人の方がバカみたいじゃない!?じゃあ、我々も払わないからねっ!」と批判されても仕方がないですよね。NHKには危機感を持って、時効期間の長短にかかわらず、厳格な債権管理体制を構築してもらいたいものです。