リーガルジャパン代表弁護士の木下です。
今週は岐阜に出張する仕事がありました。岐阜の中でもかなり長野寄りで、午前10時からの会議だったので、午前5時に起きて自宅の奈良を午前6時の電車で出発しました。実は時刻表上は午前7時の電車でもちょうど約束の午前10時に着くことができたのですが、かなり迷った結果、1時間早い電車にしました。
私が睡眠時間を削ってでも1時間早く出発する選択をせざるを得なかったのは、ある心配事があったからです。それは、新幹線遅延のリスクでした。
ビジネスマンの皆さんならご経験がおありだと思うのですが、この冬場の季節に東海道新幹線は、かなりの頻度で名古屋~京都間で遅れます。米原付近の降雪で徐行することが多いからです。たしかに米原や関ヶ原辺りの光景は本当に「目を疑う」という表現がぴったりなことが多くて、名古屋や京都では綺麗に晴れていても、その途中の米原周辺だけが凄い雪景色になっていることが少なくありません。そして、この降雪の影響による新幹線の遅延は、5分程度のときもありますが、30分以上遅れることもあり、時間が読めないので困ります。この日は新大阪駅で20分遅れを予告していたところ、実際は約15分遅れで名古屋に着きました(写真は、この日の京都周辺と米原周辺の様子です。別の国みたいですよね)。
私は、名古屋で乗り換えて特急ワイドビュー信濃で現地に向かう予定でした。もともと名古屋駅での乗り換え時間は10分あり、通常であれば余裕をもって乗り継げるはずでしたが、1時間に1本しかないこの特急列車は無情にも定刻どおり5分ほど前に名古屋駅を出発していました。そのため、私は後続の快速列車に乗車し、結局、本来乗り継げるはずだった特急の到着時刻から約40分も遅れて目的地に到着しました。今回、私は新幹線の遅延を疑って、1時間早く出発していましたから、結果的には20分前に着けましたが、時刻表どおりに信用して出発していたら、大事な会議に大遅刻をしてしまうところでした。
この遅延について、当然のことながらJRは、「ご迷惑をおかけして申し訳ありません」と機械的で無機質な車内放送を繰り返すばかりで、運賃の一部減額払い戻しなどの対応をしてくれるわけではありません。当然といえば当然の対応で、皆さん、慣れっこになっているかもしれませんが、本当にそれで良いのでしょうか?公的に予告した時刻表を遵守していないのはJRの方なのに、我々乗客が被る損害が一切補償されないのであれば不合理ですよね。
この点、まず鉄道会社と乗客の間の運送契約は、売買などと同じ有償双務契約と呼ばれるものです。鉄道会社は、約束した時間どおりに目的地まで安全に乗客を移動させるサービスを提供する義務を負っており、乗客はその対価として運賃を支払うわけです。到着時刻を遵守することも債務の内容になっていますから、到着の遅延は鉄道会社の債務不履行になります(民法第415条)。これは不完全履行と呼ばれる類型のもので、物の売買に置き換えると不良品の供給と同じタイプの債務不履行です。債務不履行の法的効果としては、契約の解除や損害賠償が考えられます
ところが、それが不可抗力により帰責性が認められない場合には、責任を負わなくてよいことになります。そして、降雪による遅延は自然現象によるものですから、正に不可抗力の代表例として債務不履行の責任はないとされるのが一般的です。
何だか民法の教科書のようなお話ですが、問題はここにあります。この降雪による遅延は本当に不可抗力なのでしょうか?
たしかに予見可能性がない事故や災害は不可抗力に当たります。しかし、いかに自然現象とはいえ、米原付近において、この季節にある程度の降雪があることは予測できることです。毎度毎度遅れることが常態化している事由が免責理由になるとは考えにくいです。遅刻の常習犯に言い訳が効かないのと同じことです。
このJRの遅延のケースですと、強力な台風の上陸や強大な地震発生とは異なり、既に分かりきっている遅延原因について、予見可能性がある以上、遅延を回避するために車両や当該区間の線路を改良するなどの対策を講じなくてはならないのではないかということです。東北新幹線などはこれらの対策ができていて、多少の降雪でも遅れないことが多いですから、700系とか新型車両が走るわりには、東海道新幹線の方は改善されていない印象を受けます。
勿論、降雪対策と言っても、車両についても線路についてもかなり莫大な費用がかかりそうですから、簡単ではないことは分かっています。しかし、それでも債務の内容として到着時刻を予告している以上、乗客はそれを当てにするのは当然ですから、時刻は守るべきですし、毎度毎度遵守できないのなら、冬用に時刻表を調整するか、現実に不利益が生じているなら割引などで対応すべきだと思います。
以上が一般の法律ルールによる解決の原理です。
ところが、実は新幹線の遅延に関する法的責任について、JRは不可抗力に当たるか否かに関わらず、割引などしなくてもよい可能性が高いようになっています。約款と呼ばれる旅客営業規則によって、事前にしっかり自らの立場を守っているからです。我々乗客はこれを了解して乗車しているというのが建前です。旅客営業規則はJR各社大体似たようなもので、例えばJR東海の同規則の場合、「列車が運行時刻より遅延し、そのため接続駅で接続予定の列車の出発時刻から1時間以上にわたって目的地に出発する列車に接続を欠いたとき、又は着駅到着時刻に2時間以上遅延したとき」を要件として、乗客は運賃の払い戻しなどの請求ができると規定されています(同規則第282条(2))。これによると、1時間は待たずに後続の快速列車が発車し、40分遅れで済んだ私のケースは払い戻しになりません。また、仮に遅れが2時間以上に及んでも、JRとしては、払い戻しをするだけで、例えば大切な約束に遅れたことに伴うビジネス上の損害などを賠償してくれるわけではありません。このような一方的な取り決めには何か釈然としないものがありますね。
ただ、実務上は事前に約款で取り決めているからといって、記載どおりに何でも免責されるわけではないので、今後も東海道新幹線の遅延が続くとして、果たして約款によってあらゆる損害が免責されるものか、個人的には興味があるところです。
いずれにしても、やはり遅延や遅刻の常習犯の言い訳を寛大に認めてはいけないと思います。
基本的には企業側の費用負担でリニアモーターカーを建設できるくらい、JR東海などは収益力があると聞きます。東海道新幹線はいつも混んでいて、特に東京~新大阪間はドル箱路線なのでしょうから、JRにはその需要にあぐらをかかないで、乗客のために誠実にサービス向上に努めてもらいたいですよね。


