リーガルジャパン代表弁護士の木下です。
今週、阪急電鉄が阪急住宅という京都市内の不動産会社を相手にして、商号の使用差止めや損害賠償を求めた裁判が始まりました。阪急住宅側は全面的に争うようで、裁判は長期化しそうです。
この類の紛争は実は古くから繰り返されてきたもので、不正競争防止法という法律などを使って、商号(商人がその営業上自己を表すために用いる名称)や商標(図形や紋様など商いのための標章)について、使用差止めや損害賠償の請求がなされてきました。
これまでにも、「三菱建設株式会社」と名乗り、三菱のマークを使用していた土木建築会社に対して、また、「積水開発株式会社」の商号で営業していた不動産会社に対して、それぞれ三菱地所と積水化学が商号の使用差止めを求めて、この請求が認められた裁判がありました。また、「ニナリッチ」という名前のノーパン喫茶室や「ディズニー」という名前のポルノショップの名称の使用が差止められたこともあります。その他で特に有名な紛争としては、シャネル事件があります。あのブランド品で有名なシャネルが「シャネル」の名前をラブホテルに使った神戸市内の会社を訴えて、損害賠償請求が認められた裁判です。たしかに、ラブホテル「シャネル」と聞くと、それだけで何かゴージャスで美しいイメージが浮かんできて、とりあえず入ってみたいという衝動に駆られるカップルも多いのだろうと思います。
このように有名な商号などはそれだけで営業上の価値が大きく魅力的なものですから、その使用は争いになることが多いです。このトラブルについて、法律は「著名表示冒用行為」として規制を設けています(不正競争防止法第2条1項2号)。同一又は類似の著名表示の使用について、このような規制がなされているのは、以下のような弊害を防止するためです。
①著名表示の有する顧客吸引力に「ただ乗り」することの弊害(フリーライド)、
②長年の営業努力により高い信用や評判を得た著名表示とそれを本来使用してきた商品などとの結びつきが薄められるという弊害(ダイリュージョン)、
③一般に不健全と思われる業種の営業表示として使用されると、冒用された著名表示の良質のイメージが汚染されるという弊害(ポリューション)などです。
たしかに、シャネル事件を例にしますと、正にイメージのただ乗りで、ラブホテル側は多数の顧客を吸引できて得をするわけですが(フリーライド)、それだけでなく、シャネルという著名表示とブランドバッグなどとの結びつきを弱めて(ダイリュージョン)、イメージを損なうことで一部のシャネルの顧客が離れてしまう不利益まで生じる可能性がありますから(ポリューション)、シャネルとしては放置できないでしょうね。
特に、現代社会においては企業経営の多角化やグループ化が加速する傾向がありますから、著名表示の不正使用によって、組織上何らかの関係があるのではないかという誤解が生じやすい状況になっています。そこで、不正競争防止法も平成5年に改正がなされ、それ以前は誤認混同のおそれがあるときに限って商号などの差止めを認めていたのを改めて、著名性を要件にして、同一または類似の冒用については広く差止めを認めるようにしたわけです。著名表示のただ乗りの誘惑に駆られやすい現代社会において、その保護をより強めたわけですね。したがって、不正競争防止法改正後は、シャネルがホテル事業まで展開していようがいまいが、著名表示である以上、その価値はより一層保護されやすくなりました。
さて、詳しい事実関係が明らかではないですから、冒頭にご紹介した裁判の結果がどうなるのかは、私にも分かりません。ただ、以前はプロ野球球団のオーナー会社でもあった阪急電鉄は間違いなく著名表示でしょうし、たしかに阪急住宅と聞くと、阪急電鉄との間に資本関係がある会社を連想して、安心感を抱く顧客は多いと思います。したがって、不正競争防止法改正の流れから考えると、この著名表示の使用は厳格に判断される可能性が高いです。
ところで、著名表示といえば、全国各地の法律事務所の名前についても、銀行や新幹線などの著名表示が使用されている頻度は比較的高いように思います。我々の法人も最近名称変更を致しましたし、同じく経営に携わる立場として名称には随分悩むことはよく理解できますが、あの著名表示は大丈夫なのだろうかと、今回ふと考えてしまいました。おそらく、著名表示といっても、「みずほ」、「ひかり」や「のぞみ」などは、一般名称化しているものですから大丈夫なのでしょう。シャネル法律事務所はさすがに難しいと思われますが…。
このように考えると、著名表示にただ乗りする誘惑はたしかに大きいものですが、商売において価値ある名称を獲得するには、やはり手抜きや近道はないのかもしれません。我々が使用する法律事務所の名称である「リーガルジャパン」についても、やはり地道にその価値を積み上げていくように努める覚悟が必要なのでしょうね。