東京事務所の木下です。
タレントのオセロ中島知子さんの休職がかなり大きな報道になっています。先日、家賃滞納を巡る裁判で判決があり、中島さんは滞納家賃の支払いとマンションからの立ち退きを命じられました。中島さんは、この裁判の第一回期日に欠席し、答弁書などで法的主張を争っていませんでしたから、この判決は予想できたものです。今後、中島さんが任意にマンションを明け渡さない場合、判決内容を実現するべく強制執行される予定で、そのときに中島さんがどのような姿で公の場に現れるのか、また注目が集まると思います。
ところで、この一連の報道の中で、判決後、中島さんの親族から依頼を受けた弁護士が中島さんのマンションに赴き、中島さんが自主的にマンションを明け渡すように、約2時間に渡って説得を試みたことが報道されていました。今回の説得はうまく行かなかったようですが、この記事を見て、弁護士ってこういう仕事もするのか…と意外に思われた人もいらっしゃるかもしれませんね。普段、弁護士と接触する機会が少ない大多数の人にとって、弁護士に依頼できる業務の範囲が意外に分かりにくいという声をお聞きしますので、今日はこのテーマを扱ってみます。
たしかに、中島さんのケースは既に紛争が裁判になっていて、裁判所にも出頭せず、任意にマンションを明け渡さす様子はなかったわけですから、後は粛々と強制執行の手続きを進めるしかなく、もはや執行官らの出番のように思います。他方、法的手続きを離れて、もう一度任意の話し合いを試みるなら、中島さんと親しい方が感情を込めて説得に当たる方が効果はありそうで、親族らの出番のようにも思います。どちらにしても、弁護士の起用は何か中途半端に感じられて、この局面で弁護士がマンションに赴いて、中島さんの退去を説得することはイメージできない方がいらっしゃるかもしれません。しかし、実はこの局面で弁護士が起用されることは比較的多く、ちょっと意外かもしれないですが、決して奇策ではないのです。
裁判でもないのに、この局面で弁護士が説得の前線に立つことが適しているのには理由があります。それは弁護士は、法的知識があるだけでなく、依頼者との距離感が近すぎることもなく、遠すぎることもなく、依頼者のためにしっかりと熱意を持ちつつ、一定の距離感を持って問題点を客観視できる強みがあり、このストロングポイントが紛争解決のために効果的に働く可能性が高いからです。たとえば中島さんのケースでも、執行官なら冷たく事務的な対応になってしまうかもしれないところを、また親族であれば逆に感情的になって取り乱してしまうかもしれないところを、弁護士であれば、法的知識を織り交ぜながら、依頼者から託された熱意を持って、しかし感情的に取り乱すことなく効果的な説得に当たれるわけです。
これは実際の話ですが、中島さんのような家屋の明渡事件において、私は以前先輩弁護士から恐ろしい結末になった事例をお聞きしたことがあります。苦労の末に夢のマイホームを購入された後、事業に大失敗し、住宅ローンを支払えなくなった方がいました。中島さんと同じく、不動産の明渡しを求められたこの方は、強制執行の当日、執行官が淡々と鍵を壊して家に立ち入ろうとする様子を見て激昂し、家中に灯油を撒いて火を点けた後、最後は自分の頭から灯油を被って、燃え盛る自宅内で焼身自殺をしてしまったそうです。関係者の後味の悪さが格別だったことは言うまでもなく、債権者としても全焼した家屋の引渡しを受けることができなくなったばかりか、そのような事件の後の更地は購入希望者すら中々見つからず、大損害になってしまったそうです。
この事件で、強制執行をする前に弁護士などが任意の話し合いをしていたら、結末が変わっていたかどうかは分かりません。強制執行をすることは法的権利ですし、実際に速やかに強制執行に着手しなくてはならない事情があることも少なくありません。ただ、判決後すぐに強制執行に入る前に弁護士が介入することによって、よりスムーズに明渡しに至ることもあり得るので、是非弁護士の活動領域が意外に広いことは知っておいていただきたいと思います。
私の経験ですと、離婚を検討していた当事者が、本人達だけでは話し合いにならず、裁判をするのも抵抗があったので、本人達と双方代理人弁護士の四者会談で、やり直すか離婚するかの協議を重ねたことがあります。また、現在我々の事務所の別の弁護士が、別居中の親子の面会交流に、継続的に立ち会っている事件があります。これらは、裁判所の法廷で活躍する弁護士という皆さんの一般的なイメージとは異なるかもしれませんが、先程申し上げた依頼者との絶妙の距離感を駆使した、我々弁護士の主要な活動領域の一つなのだろうと思います。
実は、このように弁護士に頼める業務範囲が意外に分かりにくいという声に応えるために、我々の弁護士法人ではこれらのテーマを扱った書籍の出版を企画しています。出版は今秋くらいになると思いますが、何かしら皆さんのお役に立てるものになると思いますので、是非楽しみにお待ち下さい。