東京事務所の木下です。

  早いもので今年もJリーグが開幕して一ヶ月になりますが、いわゆる強豪チームの呼び声の高い鹿島アントラーズとガンバ大阪に未だにリーグ戦の勝ち星がなく、最下位争いに沈んだままという異変が起こっています。主力選手の世代交代の時期に差し掛かっていることや監督交代による戦術変更など理由はありますが、この波乱を演出している外的要因として、今年はレフェリーによる誤審が特に目立つことを挙げる人もいます。先週、鹿島アントラーズは長年のライバル浦和レッズと対戦し、1対3で敗れたわけですが、確かにこの試合のジャッジは余りにも酷いものでした。鹿島側からすると、明らかにペナルティエリア外で犯したファールをPKと判定され、明らかなペナルティエリア内のファールをPKに取ってもらえませんでした。極めつけは、フォワードを手で押さえつけたディフェンダーがバランスを崩して自ら倒れているにも関わらず、フォワードによるファールという不可解な判定で、鹿島のゴールは取り消されてしまいました。もちろん、昨年不振に苦しんだ新生レッズの復活は素晴らしかったし、浦和のPKが正当にフリーキックと判定されていても、ゴールが決まったかもしれません。また、鹿島が正当にPKの判定を得ていたとしても、ゴールは決まらなかったかもしれません。ただ、人間のメンタルの耐性というものには限度がありますから、大きな誤審が重なると、選手が平常心を保てなくなり、少なからず試合が壊れる恐ろしさがあります。レッズOBの解説者ですら、判定のコメントに窮するレベルで、観ている我々の気持ちが切れるほどですから、試合をしている選手はメンタルをコントロールすることが大変だったと思います。

  この点、野球と比較される機会が多いサッカーですが、一般的にはサッカーの方が得点が生まれにくいにも関わらず、サッカーの方が得点に直結する局面でレフェリーの判断が絡む機会が多いですから、レフェリーのジャッジのウェートは非常に重くなります。したがって、Jリーグのレフェリーはサッカー審判員1級の中から実績により推薦で決められています。かなりの狭き門で、いわば審判の中では選りすぐりのエリートなわけです。
  それでは、それにも関わらず何故このような誤審がなくならないのでしょうか?
  もちろん、人間のすることですからミスはあります。しかし、どのような職業でも、そのミスをいかに減らせるかに取り組み、改善を目指しているはずです。しかし、Jリーグ開幕時から観ている私には、誤審はむしろ増えているように感じます。私は、これはJリーグのミスの検証の姿勢に大きな問題があると思っています。
  実はJリーグにも審判委員会というものがあって、「Jリーグ対応セクション」というレフェリングの検証機関が設置されています。これは、各試合の後でレフェリングに関する情報を集約して、検証を加え、個々のジャッジの正当性を評価して、指導することなど目的としていますが、よくありがちな看板倒れで、きちんと機能していません。ジャッジのミスはとにかく隠そうとするJリーグの体質があるからです。文書が公になったことはないものの、Jリーグの公式サイトからはジャッジの批判に関する監督や選手のコメントだけが削除されることが多く、Jリーグがレフェリーのジャッジの批判を禁じているのは半ば公然の事実になっています。しかし、これは憲法が禁じている検閲に類似する非常に危険な行為です(憲法第21条)。これでは、レフェリーの成長を期待できるはずがなく、日本サッカーのレベルアップやサッカー文化の成熟などは期待できそうもありません。

  さらに私が、このような検閲以外にも法的にJリーグの誤審を問題視するもう一つの理由は、レフェリーがボランティアなどではなく、有償で契約している立派な業務だからです。
  皆さんは、Jリーグのレフェリーの報酬がいくらくらいかご存知でしょうか?カテゴリーの違いや主審か副審かで異なりますが、J1の主審の報酬は一試合12万円です。もちろん、肉体的にも精神的にも大変な仕事には違いないでしょうが、日当1万円にもならない過酷な肉体労働で暮らしている方が少なくない昨今、90分のレフェリングをするだけで12万円というのは、かなり高給なアルバイトであることは間違いないないはずです。この高給はレフェリングが重責であるからに他ならず、多くのファンの期待を背負っているわけです。
  先程の試合に関して言えば、レッズのサポーターの中にも、「レッズファンだから、レッズが勝ったことは勿論嬉しいが、あんな誤審連発で勝っても、嬉しさは半分どころか3分の1くらいでモヤモヤします。少なくとも今年はもうJ1のレフェリーをさせてはいけないレベルだと思います」と酷いジャッジで試合が壊れたことを悲しんでいる方がいました。このように、大きな誤審は応援しているクラブの勝敗に関わらず、多くのサポーターに消化不良感を残します。しかも、その試合を楽しみに遠方からわざわざ来ているサポーターもいるわけで、それを有償双務契約で裁くレフェリーにはそれだけの責任があるわけです。債務不履行であれば、損害賠償までは行くかどうかは別にしても、対価に見合わないレフェリングに対しては、然るべき減額なり、カテゴリーの降格なりで罰するべきでしょう。

  ややもすると、日本では誤審もサッカーの一部とか、誤審に負けない強さを身に付けないといけないような表現をされがちです。しかし、そのような風潮にあぐらをかいて、レフェリーまでもが自らの誤審を正当化してはいけないと思います。
  約20年前のJリーグ開幕当時、イエローカードの存在が一気に社会に認知されました。反則を犯した選手に対して、当時レフェリーが毅然とイエローカードを提示する姿は誠に新鮮で、私はプロ野球の審判以上にレフェリーには大変な威厳と権限があるのだと、強い衝撃を受けたことを覚えています。しかし、イエローカードを提示することは、ある意味選手のミスを指摘することです(戦術的なファールもありますから、全てがミスではないですが)。いわばレフェリーは他人のミスを公然と指摘する立場にあるわけで、そのポジションにあるためには余程の鍛練と謙虚さが必要なはずです。

  結局のところ、Jリーグの誤審問題から学べる教訓は、次の二つだろうと私は思います。
①ミスをすることは仕方ないが、その後ミスを謙虚に検証して、真摯に改善することが大切である。
②ミスを厳しく指摘するポジションにある人は、自らのミスにも厳しくあることが大切である。

  おそらく、あらゆる職場や職業に共通する教訓なのだろうと思います。
  Jリーグのレフェリーには、選手にイエローカードを提示するのと同等以上に、自らのミスにも厳しくあり続けて、謙虚に自らのレフェリングを反省しながら、技術の向上を図り、是非とも好ゲームを演出して欲しいと思います。