東京事務所の木下です。
先日、日経新聞の「法務インサイド」のコーナーにおいて、金融ADR発足一年半に関する特集記事がありました。金融ADRは、業界ごとに裁判以外の紛争解決機関を設置し、中立的な立場の弁護士などが和解案をあっせんして紛争の解決を目指す制度です。以前お話したように、我々は通貨オプションを始めとする、為替デリバティブの被害に関するご相談を数多くお受けしていて(タダより恐いものはない【通貨オプション被害問題】)、金融ADRの申立てを扱う機会が増えていますから、興味深く読ませていただきました。
まず、為替デリバティブの講演やご相談の仕事をしていると、被害に遭われた会社の社長さんだけでなく、顧問弁護士や顧問税理士などの専門家も、為替デリバティブや金融ADRによる解決方法について、正確な知識がないことが少なくない印象を受けます。身近な専門家から適切なアドバイスが得られなかったために、更に被害を拡大させてしまっている会社が多いので、このような特集記事で基礎知識を知っていただくことは、とても良いことだと思いました。
これまで為替デリバティブ被害に関する露出が少なかったのは、いわゆる消費者金融問題とは異なり、この為替デリバティブで被害に遭われた会社の数は限られていて、社会問題化しにくかったことが挙げられます。しかしながら、数は少ないと言っても、銀行からこの為替デリバティブの勧誘を受けた会社は、この取引に耐え得ると銀行に見込まれた優良企業ばかりです。したがって、社会的な影響は決して小さくはないし、このような優良企業が大きく収益力を削がれていることは、地域力や国力の低下にも繋がっている深刻な問題だと感じます。そして、優良企業ばかりが被害に遭っているが故に、これらの経営者は真面目な方がほとんどで、その遵法精神が仇となって、銀行に対して強く解約交渉をすることができず、更に被害が拡大しているという悪循環もありますから、その観点からも、この問題の更なる露出が必要だと思います。
このように、その会社だけでなく、地域にとっても国にとっても由々しき社会問題たるべき為替デリバティブについて、天下の銀行と間で交わした契約だから、①理論的にも銀行が間違うはずなどなくて、②また仮に理論的に銀行の落ち度を責めることができたとしても、融資などのしがらみから、実務的には争える余地などあるはずがないと、最初から諦めておられる方が少なくありません。しかし、金融商品は複雑で専門的な知識を要することが少なくないですから、いわゆる適合性原則(金融商品取引法第40条1号)などによって、商品を購入した会社にとって相応しくない商品については、理論的にも十分に争える道があることは是非知っていただきたいです。そして、実務的にそれを銀行との間で円満に、しかも早期に解決できるのが金融ADRというわけです。
この点、日経新聞の記事によると、以前から『金融庁や全国銀行協会には苦情が寄せられていたが、金融ADRの発足で一気に顕在化した。しかも貿易量に対して明らかに過大な契約量だったり、取引銀行が「うちも、うちも」と殺到して複数行と同時に契約を結ばされたりしたケースなどが発覚』したとして、銀行が中途解約料の一部を負担して和解する案件が相次いだことが記載されており、銀行との取引であっても、きちんと争って、しかも円満に解決できる余地があることがお分かりいただけると思います。
もっとも金融ADRによる解決に弱点がないわけではないです。金融ADRの課題は、
①銀行があっせん案を受諾する義務はないので、確実に解決できるという保証まではない。
②基本的に過去の既払い損害について、遡って解決を図っているわけではない。
ということです。
この辺りは簡易迅速で、しかも銀行との間で穏当な解決を目指している金融ADRのメリットの代償とも考えられますが、せっかく普及してきた金融ADRですから、もう少し有益性をアップさせて欲しい気もします。そのためには、金融ADRそのものだけでなく、その背後に控えている裁判の改革によるテコ入れが不可欠だと思います。たとえば、裁判所には知的財産や医療過誤など専門的な紛争を集中的に扱う専門部がありますが、この日経新聞の記事において識者も指摘していたように、裁判所に金融商品専門部を作って、もう少し的確で迅速な裁判ができるようになれば、金融ADRで解決するときの圧力にもなります。仮に銀行がごねてしまって、フェアなあっせん案ですら受諾しないときには、裁判になって、それほど長期の時間を要することなく、より不利益な判決が銀行に下される可能性が広がるからです。そうすれば好循環になり、金融ADRのあっせんの成立率も更に上がり、事案によっては過去の損害も扱えるようになって、より効果的な解決手段になって行くはずです。
もっとも、現在の超円高の状況下で、定期的な決済時期に、数百万円、数千万円といった損害を出し続けながら手をこまねいているよりは、現状の金融ADRでも解決策としては十分に機能します。
輸出関連ならともかく、為替デリバティブのために、為替相場を眺めながらため息ばかりついて頭を抱えている、輸入関連の社長さんも増えていると聞きますが、明けない夜というものはないです。これらの金融商品に対する正確な知識と金融ADRに関するしっかりした経験があれば、為替デリバティブの被害はある程度和らげることができる可能性が大きいですから、是非とも我々専門家にご相談していただきたいと思います。