先週、箱根で開催されたある会社の企業内研修会に、講師としてお招きいただいたのですが、同時に社内のディベート・プログラムの審査員を務めさせていただきました。
これは、各社員の積極性や一体感を高めるためのプログラムで、様々なテーマごとに(たとえば消費税増税は賛成か反対か、原発廃止に賛成か反対かなど)、考え方を同じくする社員が4人一組でチームを作り、その論理力やチームとしてのまとまりを競うものです。勝者チームには商品があったこともありますが、主張と反論それぞれの攻防の制限時間やルールが厳格に決められていたため、議論は次第にヒートアップし、裁判の証人尋問さながらに白熱したもので、とても面白かったです。
個人事業主として弁護士だけをしていると、おそらく一生触れる機会がないであろう、会社のまとまりや一体感の舞台裏に参加させていただけることは、本当に貴重な経験で、私も勉強になりました。
ただ、これだけディベートが白熱すると、勝敗を決定する審査側も真剣そのもので、とても力が入りますし、何故そのような判定をしたのか、審査員はコメントをしなければいけないので、私も含めた5人の審査員は、負けたチームの悲しげな視線が辛くて結構疲れました。
ところで、このディベートのテーマの一つには、「死刑制度に賛成か反対か」があり、その白熱の議論を目の当たりにしてきた直後だっただけに、先週安部政権下で初めて実行された死刑執行には関心を持ちました。そして、今回死刑執行された3人の死刑囚の中には、私の自宅近くで起きた奈良小1女児誘拐殺人事件の小林薫死刑囚も含まれていたこともあって、私のこの関心は更に強いものになりましたが、実は私のご近所においては、この殺人事件はまだ比較的最近の凶悪事件として深く傷痕を残しており、どうしてこんなに早く死刑を執行してしまうのか?もっと長い間反省させて、罪を悔い改めさせてから死刑執行するべきではないか?そもそも、死刑執行の順番などのルールはどうなっているのか?…などの疑問が上がっていたようです。
この点、日本の死刑制度は、監獄内において、絞首して執行すると決められていますが(刑法第11条第1項)、その執行を命令するのは法務大臣です(刑事訴訟法第475条第1項)。死刑判決をするのは裁判所ですが、死刑執行は法務大臣の命令によるわけですね。
ここで問題は、この法務大臣の命令は、判決確定日から6ヶ月以内にしなければならないと定められていることです(同条第2項本文)。死刑執行の順番は判決確定順などのルールはなく、しかも一応は判決確定から6ヶ月以内という制限があるくらいですから、もっと長く悔い改めさせて欲しいという、被害者側の要望は認められにくいことになります。
また、反対に死刑囚側からすると、今回の死刑囚の中で一番最近確定した茨城県土浦市の9人連続殺傷事件でも、刑の確定から3年余りが経っていて、当然この判決確定から6ヶ月以内という規定には違反していることになります。以前、このような法律違反について、死刑執行がされないまま、これに怯えながら不当に長期に拘置されていることは、憲法が禁止する「残虐な刑罰」に当たるとして、死刑執行の是非が争われた裁判もありますが、実はこの6ヶ月以内というのは、一応の期限を設定したもので、法的拘束力のない訓示規定とされているので、遵守しなくても違法ではないと考えられています。
要するに、被害者側と死刑囚側双方に様々な思惑があり、もっと長く拘置を続けて死刑執行は遅らせて欲しいとか、反対に速やかに死刑執行して欲しいという意見が各々の立場から飛び交うわけですが、少なくとも現行刑事訴訟法の「判決確定の日から6ヶ月以内」という規定は、この議論を整理するための何の役にも立たないわけです。私個人的には、このような訓示規定というものは、一般の方を混乱させるだけで有害になり得るので、ない方が良いと思います。
今回の死刑執行の事実や、もっと悔い改める期間を設けて欲しかったという被害者側の意見が報道された後であれば、先程のディベートは更に白熱し、審査に携わる私の判断も、もっと悩ましくなったかもしれません。
しかし、今後もこのような一般の方の感覚にアンテナを張って、これを絶えず吸収しながら、弁護士の業務に生かすことは有益だと感じましたので、機会があれば、是非またこのような経験を重ねてみたいと思っています。