強盗殺人罪などに問われた被告人に対して、死刑を言い渡した裁判で裁判員を務めた女性が急性ストレス障害と診断されたため、国家賠償を求めて提訴するとの報道がありました。彼女は被害者の死体のカラー写真など約25枚を見せられて、何度も吐き気を覚えた後、裁判の後もフラッシュバックなどの症状に悩んでいるため、苦役を課する裁判員裁判は、憲法第18条に違反するという主張も予定しているそうです。
裁判員裁判も間もなく施行後5年を迎え、国は順調ぶりを強調しますが、殺人などの極めて重大な事件だけを扱う現行の裁判員裁判によれば、遅かれ早かれこのような被害が出ることは予測されていました。
一般の方の日常生活からは想像がつかないかもしれませんが、ドラマなどとは異なる本物の死体のカラー写真を、裁判のために時間をかけて見る作業はなかなか重い覚悟が必要です。法的判断を下すためには、老衰や病気で亡くなったきれいな遺体ではなく、あくまで事件性のある死体をしっかりと見なくてはならないからです。
私は、司法修習生の検察修習のときに、初めてリアルな死体のカラー写真を見ました。
その事件は、当時よく報道されていた連続殺人事件で、撲殺された一人目はそれまでに私が見た、どんな恐ろしいオカルト映画の死体よりも無惨に顔の形が変形して、激しく流血していました。また、毒殺された二人目は、地中に埋められた死体が既に白骨化していたため、一人目のような生々しい傷跡や血痕はなかったのですが、その大きく開けられた口やねじ曲がるほどに歪んだ歯から、死ぬ間際の苦悶や悶絶の表情が浮かび上がってくるようでした。このとき私は、死ぬ間際の人間の表情は、白骨化した後もしっかりと残ることを初めて知りました。血痕などはなくても、その惨たらしさを、逆に鮮明に想像させるもので、これはこれできつかったです。しかし、当時は裁判官になるか検察官になるか弁護士になるかは別にして、私は法曹を職業として選択し、これで生きて行くのだ、という強い自覚がありました。その責任感があるからこそ、何とか乗り切れるところはあり、正直、一般の裁判員の方が耐え難く感じることは仕方がないと思います。
この点、カラー写真とは異なりますが、私の修習同期で女性検事になった友人は、検察修習の死体解剖の立ち合いで、既に検察官志望であったことから相当気合いを入れて臨んでいましたが、途中で激しい吐き気を覚えてリタイヤしてしまいました。したがって、職業上の義務を課している人でも、そのくらい辛いときがあるわけで、やはり死体の確認は裁判員には馴染まないケースはあるように思います。
特に、死体の写真は重要証拠になるので、この死体はかなりひどいから、裁判員に見せるのは省略するというわけにもいかないです。そういう意味では苦役とも言える難しい制度だと思います。
国が作って、各地の裁判所も協力している裁判員裁判に対して、個々の裁判官が違憲違法と断じることは容易ではないでしょうが、どのような判断が下されるのか、注目したいと思います。