私は、現在、事務所がある大阪から離れた遠隔地の裁判をいくつか抱えています。静岡の富士支部、愛知の岡崎支部、三重の四日市支部と伊勢支部、徳島の池田支部などです。少し前まで、仙台と熊本もありましたし、近く札幌で裁判になるかもしれない案件もあります。
このように、裁判所は日本各地にありますが、裁判には管轄というものがあるため、どこの裁判所に訴えを提起しても受理されるわけではありません。大阪の人が東京の会社を訴えるとして、①東京地裁に提訴して、裁判の度に東京まで行かなくてはいけないときもあれば、②大阪地裁に提訴して、裁判の度に大阪まで来てもらえることもあります。
これを土地管轄と言って、原則は、訴えられる被告の住所地をカバーする裁判所に訴えを提起しなくてはならないことは、以前もお話しました(遠隔地間のトラブル解決のハードル~裁判管轄~【毎日放送ラジオ出演】)。原告は、相手方の居住地近くの裁判所まで出向いて行って、アウェイの戦いを強いられることになります。もちろん、ボクシングやサッカーのように、アウェイ(自分の居住地から遠く離れた遠隔地の管轄裁判所)の方がホーム(自分の居住地の管轄裁判所)よりも不利な判断になるリスクが高いわけではありません。そこは、裁判所というものは日本全国公平な機関ですが、それではホームとアウェイで不公平がないかというとそうではなく、現実的に遠隔地の裁判所まで出頭する、又は弁護士に出頭してもらう費用負担だけでも大変なので、管轄が遠隔地の裁判所の場合、事実上訴訟をできない泣き寝入りもありました。
このように、遠隔地の原告には厳しい管轄という仕組みですが、15年ほど前に民事訴訟法が改正されて、電話会議システムが導入されたことで、劇的な変化が生まれました。電話会議システムとは、裁判所の許可を条件として、文字どおり裁判期日を電話による会議によって済ませる方法で、具体的には遠隔地の代理人弁護士は事務所で待機して、裁判所からの電話を待ちます。そして、予定された期日の時間になると、相手方が出頭している遠隔地の裁判所から電話がかかって来て、期日間に提出した準備書面や証拠の確認、次回までに準備する内容と次回期日を決めて終了になります。電話を使っている以外は、双方が法廷などに出頭する裁判と何ら変わらないです。以前は、何時間も時間と交通費をかけて、この数分の弁論期日のために、遠隔地の裁判所まで出頭していたものですが、これなら遠隔地まで出向かなくてはならない不公平はなくなります。実際に、冒頭に挙げた遠隔地の裁判は、基本的に電話会議でさせていただいていて、私は毎回静岡地裁富士支部などに出頭していないですし、反対に相手方代理人弁護士が東京や広島で、私が大阪地裁に出頭して、電話会議を受けている案件もあります。
電話会議だと、細かいニュアンスが裁判所に伝えにくいから、少しデメリットがあると考えている弁護士もいますが、そこは書面の工夫などでカバーできるし、日本の裁判所は潔癖で、毎回出頭して来て顔を合わせる弁護士に対して、特に有利に判断するようなリスクもないので、やはり私は、電話会議によるコストカットのメリットの方が圧倒的に大きいと思います。
ところが、この電話会議によるメリットが弊害になるような案件もあるので、少々悩ましく感じるときもあります。
最も顕著な例は、遠隔地にいる被告に反論の材料が乏しく、敗訴が濃厚なのですが、毎回準備を怠ってぐずぐずしながら裁判を長引かせ、敗訴確定の引き延ばしに電話会議が一役買ってしまうケースです。
私にも経験がありますが、電話会議で裁判をしていた遠隔地の相手方の弁護士が、ほぼ毎回決められた準備を怠って、準備書面を提出しない案件がありました。そうすると、また、次回期日を決めて、仕切り直しになるわけですが、私は、その度に大阪地裁まで出頭しなければならないのに対して、この相手方弁護士は、悠々と事務所待機で裁判所からの電話連絡を待っていればよいのです。いくら大阪地裁が遠隔地の裁判所よりは近いと言っても、往復の時間や、少し前に裁判所に着いて待機している時間などを考えると、30分やそこらはかかるという弁護士は多いと思います。このように電話会議が許可されている条件の下で、このような引き延ばしをされると、残念ながら効果は絶大になります。電話会議で顔を合わせないと、審理進行の怠慢に対する裁判所からのお咎めも説得力が弱いし、何よりも、いくら引き延ばしをしても、相手方は余分なコストがかかりません(遅延損害金は増えますが、もともとこのタイプの人は、最初から、このようなペナルティを支払うつもりがないので、余り関係がありません)。仮にこれが旧法のように、電話会議がなくて、毎回出頭しなければならないとなると、遠隔地から来る相手方は、時間的にもコスト的にもダメージがありますから、程々のところまでしか引き延ばしができないのですが、電話会議システムだと、そのような心配もなく、反対に事務所待機で済む(最寄りの裁判所にすら行かなくて済む)遠隔地の弁護士の方が楽ですから、逆に有利すぎて、不公平な逆転現象が起こることがあるわけです。
要するに、私も電話会議の恩恵は受けていますし、泣き寝入りを減らしてくれる仕組みなので、システム自体が悪いわけではないのですが、何でもかんでも電話会議でやり過ぎると、悪用的な不公平感が生じることを見逃すべきではないということです。
このように電話会議には功罪両面がありますから、裁判所は、どちらにも不公平にならないような適切な運用をして欲しいと思います。