アクティブイノベーションウエスト代表弁護士の木下です。
一昨日、いわゆる布川事件の再審で、水戸地裁土浦支部が無罪判決を下しました。
確定した裁判について、新証拠の提出などがあれば、再度裁判をやり直すことが再審です。一度完全に終了した裁判をやり直すわけですから、これは極めて例外の手続きで、そもそも再審を開始してもらうことも容易ではありません。まず再審請求が認められて、裁判所が再審開始決定をしてから、ようやく再審のスタートラインに立てるわけです。
今回、第2次再審請求において、検査官から犯行現場の新たな毛髪鑑定書などが開示されて、再審がスタートし、無罪判決に結び付いたわけで、検察官が全ての証拠を開示しないことの不当性が改めてクローズアップされました。裁判員制度が導入された現在では、検察側の証拠開示が制度化されているので、このような不当性はかなり改善されていますが、この考え方は裁判員制度導入前の事件にも適用されていくべきで、公平な証拠に基づいて、公正な再審判決が下されてよかったと思います。
さて、このように無罪判決が出ても、強盗殺人犯として逮捕された桜井さん達の失われた時間は取り戻せるものではありません。43年前に逮捕された後、30年近くの服役を経て仮釈放されたとはいえ、逮捕時点で青年だった二人は既に50歳を向かえていたわけですから、余りにも残酷な話です。しかも仮釈放後も現在まで、強盗殺人犯のレッテルを貼られたままの二人が真っ当な社会生活を営むことがどれだけ難しかったかを考えると、捜査機関などがいかに謝罪しても許されるものではないでしょうが、今後お二人はどのような補償を要求できるのでしょうか?
この点、冤罪などの不当な拘束に対する補償に関する法律として、刑事補償法があります。刑事補償法によると、無罪判決を受けた者は、拘束期間に応じて、1日当たり1000円以上1万2500円以下の割合による補償金を求めることができます(第4条1項)。具体的な補償金額は、拘束期間の長さや精神的苦痛などを考慮して、裁判所が決定しますが(同条2項)、仮に1日1万円として、1年間で365万円、30年間で1億950万円ですから(足利事件の冤罪によって、約17年半の不当な拘束を受けていた菅家さんは、今年1月、最高額の1日1万2500円による合計約8000万円の補償決定を受けています)、失った貴重な時間の長さと比べると、到底十分とは言いかねる補償だと思います。
しかも、ここには仮釈放後も付きまとっていた殺人犯のレッテルによるハンディキャップの補償などは含まれていません。
制度上冤罪の被害者は、刑事補償とは別に国に対して国家賠償の請求ができますが、当時合法だった証拠の不開示などを過失と評価するのは簡単ではないですし、そもそも冤罪の被害者がそのような立証の負担を負わないでも、十分な補償が得られることが望ましいでしょう。
先程も述べたとおり、冤罪はいくら謝罪しても許されない類の間違いでしょうが、それでも最終的には金銭で賠償するしかないのが損害賠償の大原則です。お金の問題じゃない…という表現をよく耳にしますが、いかにそう思っても、誠意などを形にして示そうと思えば、少なくとも法律の世界ではお金の金額で表現するしか難しいのが現状です。とすると、これほどの不当な人権侵害については、現実の拘束期間だけでなく、再審無罪が確定するまでの不利益なども十分に考慮して、もっと補償を厚くする方向の改正をしなくてはいけないと思います。