アクティブイノベーションウエスト代表弁護士の木下です。
最近急に暑くなってきましたが、私たちの大阪事務所のビルでも、節電のために5基あるエレベーターのうち2基が稼動停止になりました。改めて電力のありがたさを感じますが、電力会社を巡っては、森川弁護士も触れていた事前の予測通り(震災後の株主総会)、先週の株主総会が大荒れでしたね。特に東京電力の株主総会は過去最長の6時間9分を要したそうです。
ところで、この株主総会ですが、日本の多くの上場会社は、伝統的に「集中日」と呼ばれる同じ日に開催してきました。これは3月決算の会社が多いこともありますが、総会屋対策すなわち、一人の総会屋が一年に複数の会社の株主総会に出席して、これを荒らすことができないようにするためです。総会屋とは、暴力団関係者が大半で、会社からお金を受け取って、株主総会の議事進行に協力したり、反対に会社がお金を払わないなら、徹底的に議事進行を妨害するなどの嫌がらせをして、結果的に会社からお金を巻き上げることを商売としている人々です。総会屋に好き勝手に活動されては、株主総会は台なしになりますから、以前は総会屋対策こそが株主総会のメインテーマで、いかに結束して、これを撃退するか、その戦闘型株主総会の準備に時間を費やしたものです。声の大きい社員はリーダー株主として最前列に陣取り、「議事進行」と連呼し、株主総会の主導権を確保します。
この株主総会は、会社の重要事項を決定する最高機関ですから、会社にとっても失敗は許されず、これを指導させていただく我々弁護士にもミスが許されないスリリングな仕事と言えます(議決に瑕疵があると、後日株主総会の決議が取り消されて(会社法第831条1項)、その年の経営戦略も変更になり、大損害を与えるリスクがあります)。この通常の準備に加えて、戦闘型では総会屋対策が加わるのですから、我々弁護士も大変でした。そして、上場会社の数は限られていますから、株主総会の指導業務に携われる弁護士はほんの一握りですが、幸いにも私は勤務先事務所が大阪でも有数の企業法務系事務所でしたので、いろいろな経験をさせていただくことができました。中でも、ある超有名会社の準備に同行させていただいたときに、本番さながらの準備がなされていたことに驚きました。質疑応答だけでなく、議長である社長に対する、議長交代の提案(専門的には「動議」と呼びます)が出されたときの対応なども本番さながらで、本当に迫力がありました。今でも忘れられないのは、明らかに恐持てのオーラ全開のおじさん達が、天下の大企業の社長に対して、いかにもチンピラ風の喋り方で、議長交代の動議を提出し、「おらおら~、社長さんよぉ、さっさと議長交代しちゃってよね~」みたいな威嚇をし、これに呼応するように、会場のあちこちで「はい、動議、動議ぃ~~」とか、「ちゃんと採決しちゃってよね~」といった、小ばかにしてプレッシャーをかけるような野太い声の下品な野次が次々に飛んでいたことです。大きくて綺麗な会場はたちまち殺伐とした独特の嫌な空気に包まれました。当時、弁護士一年生で20代だった私は、「うわ~っ、これが商法の教科書で読んだ総会屋かぁ。ホンマに存在するんや…」と完全に圧倒されてしまって、連れて行って下さったボス弁護士に、後で、「せ、せ、先生、今日は総会屋のOBを招いてのリハーサルだったんですね!?」と真剣に尋ねたら、「アホかいな。あれは、みんなここの社員さんや」と失笑されたことを覚えています。「どうやったら、あんなに迫真の演技ができるんだろう。よっぽど恨みでもあるのかなぁ。後で社長に根に持たれて、ヤバいことにならないんかなぁ」と、しばらく余計な心配をしていたことも覚えています。しかも、これに対する議長の対応がまた見事で、凛々しく毅然と採決を取って、動議を否決し、議事を進めて行った姿が眩しかったことも鮮明に記憶しています。書物の知識とは異なり、実務の世界って、やっぱりすごいなぁと、本当にびっくりしたものです。
その株主総会も、私が弁護士になった頃と比べて様変わりしました。総会屋に対する利益供与を処罰する総会屋対策などの効果があり、総会屋は激減し、替わりに普通の一般株主が出席して、臆することなく企業のトップに対して、質問や意見を述べるようになりました。その結果、シャンシャン総会と呼ばれた15分程度の株主総会は少なくなり、株主総会の開催時間は長期化し、それが適切だとされる傾向にあります。私が独立開業後に関与させていただいた数年前の株主総会はこの傾向が強く、一般株主からの素朴な質問や些細な疑問に対して、会社側がいかに丁寧に答えるのかという対話型株主総会がテーマでした。例えば、私が関与した株主総会の中で、ある老人株主が、「最近は携帯電話のみで固定電話を持たない家庭が増えて来て、これがコスト削減になっていると聞いたのですが、この会社には固定電話が何回線あるのですか?」と真面目に質問されました。まさか株主総会で電話加入権の数を質問されるとは思ってもおらず、全国に支店がある大きな会社ですから、即答できるわけがありません。これが、戦闘型株主総会なら、威圧的に一蹴しかねない雰囲気でしたが、対話型では丁重に丁寧に答えようとします。その姿勢は微笑ましくもあり、ややほのぼのしていた時代かもしれません。
ところが、今年の東京電力に代表されるように、今度は対話型からさらに釈明型とも呼ぶべき性質に、また株主総会が変わりつつあります。会社の不祥事や大きなミス(例えば、みずほ銀行のシステム障害)、業績不振などが増えて、これを株主が厳しく追求し、これに対してひたすら会社が釈明するようなケースが増えたのです。もちろん業績不振は以前からどこの会社にもありましたが、以前は物を言わない株主が多かったですから、最近のような釈明型に陥ることは少なかったのだと思います。再び緊張感のある株主総会になってきましたし、戦闘型とは別の意味で準備する会社も大変ですね。
それでも、株主総会とは本来そういうものです。戦闘型は論外としても、当たり障りのない表明的な対話型でも物足りなく感じるところであり、株主からの厳しい批判や疑問に晒されながらも、これに自信を持って答えられるようにし、反対にその機会に株主の生の声を吸い上げながら議論する努力をしてこそ、会社の成長や繁栄もあるのだと思います。したがって、株主はしっかりと意見を述べて、会社はこれにしっかり答えながら、反対に株主の意見も問うて議論する…ただ釈明に追われるのではなく、将来的にはこういうディベート型の株主総会に発展させていくことが大切ではないかと思います。