アクティブイノベーションウエスト代表弁護士の木下です。

   なでしこジャパンが女子ワールドカップで優勝するという衝撃的な偉業を打ち立てました。サッカー後進国だった日本が、ワールドカップで優勝する日が来るとは夢にも思わなかったです。まるで有名なサッカー漫画のキャプテン翼で描かれるような劇的なエンディングでした。
   大会を通じて、ホスト国ドイツの三連覇を打ち砕いた丸山選手や、決勝のPK戦でビッグセーブを連発したキーパー海堀選手など、たくさんのヒロインが誕生しましたが、やはり一番印象的だったのは、大会MVPと得点王に輝いた澤選手でしょう。アメリカとの決勝戦の延長戦後半12分の澤選手の同点弾は、残り時間3分という土壇場で生まれた起死回生のものでした。そして、そのドラマチックなゴールの興奮をより高めたのが、このシュートの難しさと美しさです。澤選手のゴールは日本の左サイドのコーナーキックからでしたが、相手ゴールを右手にしながら、コーナーキックのボールに向かって走って行き、これを直接右足で叩き込んだボレーシュートによるものでした。止まっているボールではなく、空中で動いているボールを直接シュートするボレーがミートするだけでも難しいことは、サッカー経験者でなくても想像できると思います。しかもこれは右足のアウトサイド、つまり足の外側を使って、右側後方に叩き込んだシュートで、この土壇場で放つにはリスクが大きい難易
度の高いものでした。私も、小さい頃サッカーをしていましたから分かりますが、ボールに合わせる面が小さいですから、足の内側を使うインサイドよりアウトサイドのシュートの方が確実性に乏しく、格段に難しいです。あの場面、コーナーキックから飛んで来るボールに向かって走り出した澤選手は、もう身体半分右側(相手ゴール寄り)にポジションを取って、ボールを正面真ん中に置いて、確実に左足のインサイドで右側のゴールに蹴り込むことも考えたはずです。しかし、澤選手の右側には相手ディフェンダーがぴったり身体を寄せていて、より右側にポジションを取ることができませんでした。そこで、澤選手は一瞬の判断で、難易度は高くなりますが、一か八か右足のアウトサイドシュートを選択して勝負に出たのだと思います。
   しかもここで特筆すべきは、チームの大黒柱として連戦を戦い抜いてきて、そのファイナルの延長戦後半に出たプレーだったということです。通常であれば、この時間帯は体力は勿論ですが、精神的にも疲労の極致で、的確なプレーの判断や選択が瞬時にできないものです。ワールドカップ決勝という人生最大の大舞台、それも延長戦後半の終了間際で、この判断力、決断力、そしてその決断の確かな根拠となった研ぎ澄まされた技術…心技体をフル回転させて、これまでに培ってきたキャリアの結晶ともいえる最高のビューティフルゴールを突き刺した澤選手は、本当にいくら称賛しても称賛しきれないほど素晴らしいと思います。

   ところで、今回私と同じように、感動した方は多いでしょうが、一部に奇跡とか、何か特別なパワーが働いた結果であるかのような表現をされている人がいたことには違和感がありました。
   澤選手は現在32歳ですが、15歳で代表デビューしてから、18年間この日までずっと努力されてきました。短距離走や長距離走…とにかく走ること、ボールを正確に蹴ること、ボールを正確に止めること…毎日の練習は単純で嫌になるほど地道なものが多いでしょうが、その一つ一つの積み重ねがあの劇的なゴールにつながっているはずです。運は必要でしょうが、決して奇跡でも、ましてや一夜にして夢のように身に付けたスーパーな力によるものではないのです。劇的なゴールの陰に、きちんとした準備による裏付けがあったことを忘れてはいけないと思います。

   実は、意外かもしれませんが、サッカー選手とは似ても似つかない我々弁護士の仕事でも、似たようなシチュエーションに遭遇することがあります。皆さんが法廷ドラマなどでご覧になる証人尋問、それも何時間もかけて数人の尋問をした最後の方になって、予期せぬ展開になったときの対応などが正にそうです。こちらが申請した主尋問は、予定されたものだから問題ないです。問題は相手方の証人に対する反対尋問や、こちらが固めた主尋問の内容に対して、相手方が予定外の崩し方をしてきた後の再主尋問による補足です。いくつかのパターンを予想しているとはいえ、筋書のない展開ですし、一発勝負でやり直しが効かないこともスポーツの真剣勝負と極めてよく似ています。
   そして、この予想外の反対尋問や再主尋問を制することができるかどうかは、地道な準備をどれだけ積み重ねたかで決まるというのが私の持論です。記録を丹念に何度も読み込み、打ち合わせを丁寧に重ねること…これらの作業には華やかさはなく、とても地味な下準備ですが、この手抜きをしないで準備をした後の尋問は必ず成功します。反対尋問などが多少想定外の展開になっても、瞬時に細胞が反応して、的確な質問や補足のアイデアが湧き出てくるようなイメージです。たとえ長時間の尋問で疲れていても、身体が反応してくれます。
   つい先日、大阪の吉田弁護士が反対尋問を担当した事件と、広島の蓮見弁護士が主尋問や再主尋問を担当した事件がありましたが、多少の想定外の展開をものともせず、ともに見事な仕事をしました。手前味噌になりますが、想定外の流れに対して、何故彼らが瞬時に良い対応ができたかと言えば、良い準備をしていたからで、それ以外の何物でもありません。そこに奇跡とかスーパーな力などは宿っていないのです。偶然ではなく必然の結果なわけで、その必然のレベルにまで準備を重ねるのは地味で苦しい作業です。しかし、その地道な準備をしていたからこそ、瞬時に細胞や身体が反応し、大きな成果を得られたのだという点では、澤選手の同点弾と同じ種明かしなんだろうと思っています。

   筋書がない真剣勝負だからこそ、地道な準備をどれだけ積み重ねたかが勝敗を分ける…澤選手の劇的なゴールは、我々弁護士に対しても、その地道な準備の大切さを再確認させてくれました。
   しっかりと地道な準備を重ねて、ここ一番の仕事で存分に力を発揮できる…澤選手達なでしこのメンバーはそういうプロフェッショナルの集まりだったと思うし、我々も是非、そんな弁護士が集う弁護士法人であり続けたいと思っています。