アクティブイノベーションウエスト代表弁護士の木下です。

   先日の日本女子ゴルフツアーのスタンレーレディスで有村智恵プロが今季初優勝しました。現在23歳の有村プロは、私のイチ押しの女子プロゴルファーです。小柄でキュートなルックスながら、近年めきめきと頭角を表してきた有村プロは、人気と実力を兼ね備えた若手のホープの一人です。その有村プロが3日間トーナメントの初日に、同一ラウンドでアルバトロスとホールインワンの両方を達成するという大記録を打ち立てました。日本国内ゴルフツアーでは、男女通じて初めての快挙だそうです。
   ゴルフに詳しくない方のために説明しますと、アルバトロスとは標準打数より3打も少なくホールアウトすることで、有村プロは、パー5のロングホールを2打でホールアウトしました。残り190ヤードもある第2打を、ユーティリティクラブで直接カップインさせたのです。一方、ホールインワンはパー3のショートホールのティーショットを直接カップインさせるものです。標準打数より2打少なくホールアウトすることで、イーグルとも呼びますが、同じイーグルでもロングホールを3打でホールアウトするイーグルよりも、ホールインワンの方が通常距離も長く、難易度が格段に高いものです。私も、ロングホールやミドルホールでのイーグルは3回程経験しているのですが、ショートホールでのイーグル、すなわちホールインワンの経験はなく、当たり損ねでも、まぐれでもいいですから、一度はやってみたい憧れです。
   このようにアルバトロスもホールインワンも、ともに極めて確率の低いスーパーショットですから、これを同一ラウンドで達成する確率など天文学的な数字だろうと思っていたら、やはり約1000万回に一回の確率で、毎日ラウンドプレーしても約3万年に一度の快挙だそうです。石原裕次郎も、坂本竜馬も、織田信長も、聖徳太子も、その遥かご先祖様達の時代に遡って、みんなが順番に毎日ゴルフをしていたとしても、到底お目にかかれない大記録ですから、関係者の方がこの偉業を讃えて、ギネスブックへの申請準備に入ったことも頷けます。

   ギネス・ワールド・レコーズ社が発行するギネスブックとは、様々な分野の世界一を認定し、掲載している書籍として余りにも有名です。このギネスブックへの登録方法としては、ギネス世界記録のウェブサイトからの申請をするだけでよく、最低限の基準として、①記録達成が証明されること、②記録が数量化できること、③今後記録が破られる可能性があることなどが条件となっています。
   もっとも、a、申請内容が挑戦者本人、観客、周囲の人々を大きな危険に晒すもの、b、申請者以外の人が、その記録に挑戦するに値しないと判断されるものなどは、上記要件を充たしていても却下される可能性があるそうで、現実に一度受け付けられても、現在の版では掲載されなくなった記録(例えば早食いや不眠の記録など)が存在します。これらは、無謀な挑戦が生命の危機に関わる可能性が高いためで、このaの要件に当たるとして却下されたものです。また、変わった例では、5歳7ヶ月21日で出産した女児の記録があり、以前は最年少出産記録として掲載されていたのですが、やはり非常に危険で命に関わるし、女児に対する性犯罪を誘発する可能性があるため、現在は掲載されていないそうです。このように、たとえ数値化された世界一の記録でも、却下されている事例は、法的には公序良俗違反とも呼ばれる類型のものが多く、民法第90条でも無効になるものとして規定されています。

   今後、有村プロの記録がギネスブックに掲載されるか分からないですが、仮に掲載されないと、法的手段はあるのでしょうか?
   実は裁判には、金銭の支払いなどを請求する裁判以外に、何らかの法律関係の確認を求める裁判があります。例えば、会社を不当解雇された従業員が、従業員としての地位の確認を求める裁判が代表例です。
   この点、ギネスブックの記録は法律関係とは異なりますが、これに掲載されると営業的価値が発生し、法的地位にも影響しかねないことがありますから、法律構成によっては、記録の掲載を求める裁判が受理される可能性はありそうです。しかし、掲載するかどうかに関する裁量権の範囲は広く、特に却下理由が公序良俗違反であれば、裁量権の逸脱はないですから、請求は棄却される可能性が高いと思います。有村プロの場合、公序良俗違反とは関係ないですが、既にアメリカツアーでは前例がある記録らしいので、別の観点から掲載されない可能性があります。これ程凄い記録でも…と思いますが、世界は広いということでしょうね。

   ギネスブックの登録要件が意外に簡単であることを知って、一瞬私も我々の法人で、何かギネスブックに掲載できることができないものかなと考えましたが、すぐに考えるのを止めました。弁護士出身として、何か特殊な職業に就いてみたり、奇抜な宣伝をしてみたりして、弁護士初の〇〇みたいな活動をすることに意義を求める人もいますが、これは弁護士としての私のスタンスとは違うんだろうと思うからです。昨日も述べましたが(なでしこジャパン澤穂希選手から、我々弁護士が学べること)、我々弁護士の仕事において、結局のところ、地道な記録の読み込みや依頼者との打ち合わせなどが一番大切で、どう考えてみても、これらはギネスブックとは無縁のものばかりだからです。記録よりも、個々の依頼者の記憶に残るような仕事のために、堅実な準備を続けたいものですね。